ベムのコラム: 2014年1月アーカイブ

今年も恒例の業界予測です。

その1)ネット広告の効果指標に「認知、態度変容」が大きく浮上する年
     ~ネット動画広告の需要活発に・・・インベントリー開発が急がれる~


長くネット広告の効果指標はクリックであった。CPCやCPAが効果指標である。もちろんビュースルーによるコンバージョンへの寄与も測る時代になったとはいえ、リスティングのキーワード別の入札価格データを管理して、アトリビューション分析によりネット広告のリ・アロケーションをしている企業はまだまだ少ない。

それでも、ネット上にビジネスのゴールがある場合はいいが、リアルな販売チャネルが主力のブランドにとって、ネット広告の活用の効果指標を何にするのか、おおきな課題ではあった。
 その課題に、ネット広告による「認知・態度変容」の効果を、トラッキング調査をかけて調べることが定番化する流れを決定づける年になるだろう。
 そしておそらく今まで指標にしてきたクリックレートが、ほとんど効果と相関しないことが分かるだろう。

 私は14年前に「最新ネット広告ソリューション」という日本で初めてのネット広告に関する書籍を書いたが、その中ではクリック率は広告認知にも相関する指標であるとした。ネット黎明期のユーザー行動では、そう言えたかもしれないが、広告フォーマットも様々な今ではどうもクリックと認知・態度変容が相関するとは言い難い。
 

 ネット動画広告をTVと同じ指標で捉えると同時に、配分モデルをつくる。これが特にTVを大量に使うブランドにとって、効率的に認知をとるために、または認知をより購買行動に繋ぐ手立てのために検討されるだろう。

 米国では、ネット動画をTVと同じ効果指標で捉えているばかりか、その買い付け方もTVCM在庫と同じアップフロント(先付け)で行われ始めた。掲載面はプレミアムな枠を買うが、配信はオーディエンスごとになる。勿論日本が同じ状況という訳ではない。しかし、m1層などを中心にTV訴求が到達しにくいターゲットへの接触と、ネット動画広告で獲れる認知の購買行動への寄与を検証してみると、ネット広告のROIが高く評価される可能性もある。

 ネット動画広告に関しては、過去には何度も「今年は来る」と狼少年のように叫ばれてきたが、その効果を認知・態度変容とすることで、その評価は従来と違うだろう。
 多くのブランド認知を求める広告主がネット動画にシフトするが、インベントリーが少ない状況は否めない。優良メディアでありながら、クリックベースでしか評価されないが故にCPMが上がらず、大量のPVを有するサイトに圧倒されてきたメディアには、動画インベントリーを開発して広告収入を拡大するチャンスである。

 またテレビ局もコンテンツを動画DSPマーケットに出して収入拡大を狙う機会となるだろう。リアルタイム視聴が少なくなる中、1円にもならない録画視聴率を誇ってみても意味がない。動画コンテンツの供給が待たれる。

その2)データエクスチェンジが試される年
   
ビッグデータ、データサイエンティスト、DMPといったバズワードが踊った2013年だったが、2014年はトップランナーのDMP装備が完了し始める。と同時に、成果を出すべく本格的に「分析」が試されるだろう。
そうした中にあって、企業の1stPartyデータとメディアのいわゆる2ndPartyデータ、購買行動データなどの3rdPartyデータ、そして企業間で1stPartyデータ同志をエクスチェンジが初めて本格的に試されることになるだろう。とはいえまだまだエクスチェンジのための環境整備が出来ていない。相対(あいたい)で取引きされるところから始まる。
また有力なメディアがDMPを導入し、広告主にとって価値のある広告商品開発にも取り組むだろう。その場合、まずは特定の有力クライアントとの取組が優先される。

こうした流れの中で、オリジナルなオーディエンスデータを所有しない広告代理店の存在感が希薄になる怖れがある。エクスチェンジ市場はあくまでトレードオフが原則である。「場」に自分の持っている有用なデータを出して初めて参加できる。メディアと広告主企業が直接交換することが想定できる。代理店はデータマーケティングにどういう関与ができるかまさに経営課題になるだろう。ただまずはそういう状況を認識できなければ何も始まらないが・・・。

その3)ネイティブ広告とその配信プラットフォームが注目される年

 そもそも「ネイティブ広告とは」としっかり認識しないといけないが(参考のためご覧になるとよい。)・・・。

http://markezine.jp/article/detail/18231
 
 P&Gなどが米国で活用している「アウトブレイン」などの日本上陸も報道されているが、
http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmgp/20131209/256883/
こうした仕組みを提供するプレイヤーが登場すると思われる。

 「ネイティブ広告」が認識され、注目を集めると同時に、こうした配信プラットフォームの活用法についても話題になることが多くなるだろう。活用するには企画力も必要だ。パフォーマンスの良いネイティブ広告を開発できる広告主は、顧客洞察や適切なコミュニケーション開発の「手練れ」と言える。
 


その4)アマゾンデータがリアルチャネル購買データ供給を刺激する年

  そんなに本格化しているようには見えないかもしれないが、アマゾンの購買データをマーケティング活用する企業が急激に増えるだろう。リアル店舗のPOSデータだけでなく、アマゾンでのセールスデータを目的変数として、重回帰分析によるメディアアロケーションを行う企業も現れる。メーカーもアマゾンデータによる商品開発に乗り出すなど、こうした動きが、リアルな店舗網をもつ流通企業を刺激すると思う。消費者の購買行動データを提供することに慎重な各社も、メーカーとeコマース企業のデータ連携を指を銜えて観ている訳にはいかなくなる。
これをきっかけとして、購買データ系の3rdPartyデータの流通が再来年以降に本格化するだろう。その発端をアマゾンがつくると見ている。
 
いずれにしても、保有するデータにおいて、グーグル、アマゾン、ヤフーの3社の優位は大きい。楽天がここ何年間参入を目指すも最後は各店舗保護によって踏み切れない間に、アマゾンに大きな水をあけられるだろう。
企業が欲しい3rdPartyデータは基本、購買行動系、ソーシャルメディア系、TV視聴データ系の3つである。リアル購買データのTポイントそしてBluekaiも日本参入を果たして、データ供給合戦にはなるのは必至。
 とはいえこれを活用して成果を出す企業には、自社のビジネスロジックを熟知し、分析官に、仮説と分析法を指示できるだけの知見を有する人材が必要だ。
 私は時々、これをジャック・バイアーとクロエ・オブライエンに例える。いかにクロエが優秀な分析官でも、ジャック・バイアーの指示がなければ成果は出せない。


その5)PDCAに耐えるネット動画広告クリエイティブ開発が芽吹く年

  従来日本のネット広告代理店が行っているクリエイティブとは「クリエイティブ」ではない。有り物の素材を借りてきて、レイアウトしているに過ぎない。原稿素材はつくっているが、クリエイティブしていないものだ。これを私は「クリエイティブ・アダプテーション」と呼んで、本質的なクリエイティブとは異質なものと考えている。
 
 ネット動画広告も長年「今年は来る、来る」と狼少年状態だった。その大きな理由のひとつは、こうしたものは「広告フォーマット」そのものに効果を依存するのではなく、その「広告フォーマット」の特性を生かした独自のクリエイティブが開発されなかったことだ。
 前述したように、効果指標に「認知・態度変容」が中心になってくると、クリエイティブに手を掛けることで、その効果に大きな違いが生じる。当然なのだが、最適化の最大の変数はクリエイティブである。
 
 ネット動画広告独自のクリエイティブをつくる広告主が、今年は一挙に増えるだろう。
プレロールにしても、最初の5秒でスキップされないように、また逆に5秒で達成するようにしたり、とにかくTVCMとは別の素材づくりに対する効果を期待する広告主が出てくる。
 その期待に対応すべく「インタラクティブ動画」など従来のバナーづくりとは一線を画したリッチなクリエイティブ開発スキルを標榜するプレイヤーも登場するだろう。
 こうしたプレイヤーとは、動画広告の視聴データ、認知・態度変容データでPDCA、つまりクリエイティブの改善作業を当然のように行うクリエーターたちということになる。
 それも、キャンペーン期間前から期間中にリアルタイムに効果データを計測して、PDCAを廻さなければ意味がない。改善を高速で行う文化、習慣を動画広告にも持ち込めるか、そのあたりが試金石となるだろう。


 TVCMでは認知はそれなりに取れる。しかし今の課題はTVCMで取る認知だけでは購買行動を促進しづらいことだ。パーチェスファネルの第二段階であるレリバンシー(つまり、このブランドは自分に関係するものだと認識すること=自分事化)の獲得をネット動画が担うかもしれない。特にブランドに複数のターゲットが設定されていて、それぞれに文脈の異なるメッセージがあるのであれば、ターゲティング配信できるネット動画でクリエイティブを差し替えてTVCMでは訴求できないところまでをコミュニケーションすることが有効であると考えられる。

 私は、そのうちTVCMは、DMPから顧客のインサイト(反応する文脈)を発見して、メッセージを開発し、ネット動画広告クリエイティブを配信した上で、TVCMをつくるというプロセスがあっていいと思う。

 


その6)プライベートDSPが本格始動する年

  DMPにプライベートDMPと呼ばれる仕組みがあることはご存じの方も多いだろう。このプライベートDMPを保有することになると、ここでセグメントしたターゲットに対して広告配信をかけて、その結果のパフォーマンスデータをDMPにフィードバックするには、必然的にプライベートDSPが必要となる。
 効果を得る変数は、もちろんオーディエンス(つまりクッキー)だけではない。掲載面は非常に重要な変数であり、配信タイミング、適正フリークエンシ―など、そして最も大きな変数である「クリエイティブ」を最適化しなければ意味がない。
 
 (入札運用型はオーディエンスを最適化するだけというような間違った見解も耳にするが決してそうではない。)

 こうした配信結果をDMPにフィードバックして、「リザルトラーニング」を行うには、DSP事業者のそれをただ単に使って配信するだけでは成立しない。掲載面の管理を含めたプライベートDSPが要る。
 ブランドを毀損しない、というよりブランド認知のためにより効果的な配信を行うには、当然最適な掲載面が必要であり、そのブランドにとっての最適な掲載面ネットワーク、つまりプライベートエクスチェンジが必要となる。
 
 米国のグローバル企業のように、プライベートDMPによるプライベートDSP運用をインハウスで行う日本企業はまだないが、どこまでをインハウスと呼ぶかは別にして、特定の広告主企業のためのDSPが試される。

 一方で、SSPも新たな局面を迎える年になるだろう。DMPを導入するメディア企業も増えると、広告商品開発をオーディエンスベースで行う流れができる。プレミアムな枠ものを含めてメディアの広告収入の最大化のために機能する本格的なSSPが参入してくるだろう。


その7)広告業界に起きる大変革と新たな外資参入の兆しの年

   実質的に、「電・博・ADK」という言葉は終わっている。電通はイージスの統合で、グローバル・メガ・エージェンシーとなった。一方、ADKには勢いがなくなっている。デジタル領域の成長が電博に比べて低く、総合力の差はさらに拡がってしまった感は否めない。博報堂から見ると、追いかけてくる会社が見当たらない。しかし電通も実ははるかかなた先に行ってしまった。3社はそれぞれ、同じレイヤーにはいない。電通にとってサービスをグローバル標準にすることが課題だ。国内対応での個々の勝ち負けにいちいち構うこともないほどだ。日本資本の企業のマーケティングにおけるグローバル化を進めるだろう。博報堂は国内では真っ向電通と勝負しているように見えるが、アジアに行けばADKの方が存在感があるくらいだ。偉大なる2位にはこの状況は「何も問題なく感じる」かもしれない。

 電通イージスのこのページを見ると、本当に国際化している。もしかすると、次の社長は日本人ではないのではないかと思うくらいだ。
http://www.dentsuaegisnetwork.com/en/teams/


 電通が日本独自の広告ビジネスモデルを堅持している間は、メガエージェンシーとはいえ、極めて大きな参入障壁があって市場を形成できなかった。基本的に今もそうである。
 しかし、電通のグローバルメガエージェンシー化は、日本市場も電通が敢えてグローバル化することにもなる。(もちろん日本の牙城も堅持するだろうが)この変化に、デジタル時代のデータマーケティングへのパラダイムシフトがあいまって、日本の市場にもついに大きな変革をもたらすことになるだろう。

 そもそも「グローバル」というテーマは、「デジタル」と表裏一体だ。デジタルを標榜する上において、「共通プラットフォーム」を管理する事から得られる効率性と、「データのスケール化」を目指す事でのパフォーマンス向上は、そのまま「地理的マーケットの拡大」、いや「地球全体をマーケットとする」事を目指す動機に直結する。


データマーケティングの時代に突入し、かつ入札モデルのバイイングがシェアを拡大するなか、従来の企画力と広告枠保有力の勝負だけではなく、新たなマーケティングの通貨としてのオーディエンスデータをいかに保有するかがテーマとなるだろう。またワンストップ型の顧客インターフェイスだけでは対応しづらい専門性の高い領域が拡がっている。総合力を標榜し、ワンストップ型を維持するか、専門性の高いエキスパート集団を集めるビスポーク型を目指すかの転機となる年だ。

そしてコンサルファームやSIerの領域からもせめぎ合うマーケティングコミュニケーション産業の様相を呈する環境で、外資メガエージェンシーもこれを日本市場再攻略のチャンスと見なすだろう。
 
 今年、日本市場に導入してくるであろう外資トレーディングデスクなどはそう簡単には成功しないと思うが、日本にないサービス(データマーケティングの高いコンサルスキルと独自かつ有効なオーディエンスデータ)を提供できれば、ポジションを獲得する可能性もある。

 この環境に、SIerコンサル系からアプローチしてくるテクノロジーエージェンシーも登場すると思われる。

 マーケティングテクノロジー提供プレイヤーを、従来エージェンシーが囲い込むのか、テクノロジープレイヤーが従来エージェンシーを取り込むのか・・・。


 2020年までにはほとんど決着するだろう大きな業界再編の兆候が見える年となるだろう。

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