ベムのコラム: 2013年1月アーカイブ

 「広告やマーケティングの業界にはデジタル人材が不足している。」とよく言われる。確かに総合代理店のほとんどはデジタルを理解していないし、今から勉強したところでもうキャッチアップは難しい段階に来ている。それに既に広告領域だけはデジタルマーケティングは出来ない。マーケティングテクノロジーの理解や、データマイニングのスキルなど必要な知見は広範囲でかつ統合や融合が難しい。
 とはいえ、あまりトライされていない試みとして、ネット専業系のエージェンシーでの知見をもっている人材に、総合代理店が昔からやってきたマーケティングの基礎やコミュニケーション開発の基礎をインプットするということがあると思う。

 ネット広告におけるディスプレイ広告やリスティング広告を扱って、CPAを目標にこれを最適化することのみに向かって一生懸命走っていると、実はその目標は部分最適であって、全体最適を目指していることにはならない場合も多い。また広告を含めたコミュニケーションの本質が分からなくなるという面もある。

言い方を変えると、上流で行われている戦略設計やクリエイティブ開発、マスメディアプランニングとバイイングの実際を知ることは非常に意味があるはずである。

 そもそもコミュニケーション開発というのはどういうプロセスで行われてきたかを知り、実践してみるチャンスをネット広告だけにハマってしまっている人たちに得てもらいたい。
 
今回、ベムがプロデュースして、特にネット専業の方々を対象にマーケティングの基礎とコミュニケーション開発の基礎及び、クリエイティブとマスメディアプランニングを演習する「プランニング力養成プログラム」をつくった。
 詳細は下記でご確認いただけばと思う。

http://tateito.co.jp/manabito_plannning201302/

 従来、広告キャンペーンを含むマーケティングコミュニケーション施策を企画する際は、コミュニケーション戦略は表現戦略とメディア戦略に分業して行われることが多かった。しかし、トリプルメディア時代にあっては、コミュニケーション戦略は、表現もメディアも統合的に行う必要がある。
 デジタルメディアの知見のある人材が、コミュニケーションプランニングの本質を理解し、スキルを養成するということは、この業界にとって非常に良いことである。

講座.gif

 「デジタルマーケティング」という言い方が広まって定着した。私自身も「デジタルマーケティング」のコンサルタントと称している。しかし、このワードの定義は意外と獏としている感がある。「そんなことはない。デジタルマーケティングの定義はしっかりある。」と言われる方もいらっしゃるかもしれないが、あえてここで私が考える「デジタルマーケティング」の概念とその目指すところを明確にしてみたいと思う。

 一言で云うと、デジタルマーケティングとは「デジタルなデータや施策を使って、マスやリアルを含むマーケティング全体の最適化を目指す試み」と解釈できる。
 つまり、ネットだけを最適化するのは「デジタルマーケティング」ではないと考える。あえて「ネットマーケティング」とは違うと定義してみる。
 
 例えば、Webやネット広告配信に反応するユーザーがいる。あるブランドのメッセージに反応したのだからそのユーザーはターゲットである。むしろ「反応した人がターゲット」と規定すると、それはデジタルデータによって実証されたターゲットである。このターゲット像(クッキーからそのプロフィールを分析)を基点にマスやリアルなマーケティング施策を設定する。デジタルマーケティングとはそうしたものではないかと考える。
 またあらゆるマーケティング活動がブランドのゴール(売上、利益、長期のブランドエクイティ・・・)にどう寄与しているかを分析するための、デジタルであるが故にインタラクティブになっているメディアの反応を中間指標としてモデル化することが出来るようになった。これもデジタルマーケティングのひとつの有り方である。

 ビッグデータ時代のマーケティングとは、デジタルデータを中核とする様々なデータを使って、今(現状)を知り、打ち手を企画実施し、その結果を予測するものだ。またマススケールで従来のワン・トゥ・ワン マーケティングを行う、ないしマススケールのデータから購買行動の予兆を発見して、個別のユーザー行動に紐付けて的確なタイミングのコミュニケーションを行うものだ。
 よって、デジタルマーケティングとはマーケティング活動の真ん中にあって、マスマーケティングとワン・トゥ・ワン マーケティングを融合するポジションにある。
 マスマーケティング(レガシーなマーケティング思考)と対比するポジションにデジタルマーケティングがあるのではなく、デジタルマーケティングは、デジタルマーケティングによって改革されるすべてマーケティングのど真ん中にあって、レガシーなマスマーケティング思考や手法を変革してしまうものと捉えられる。

デジタルマーケティングの構図改.gif

デジタルインテリジェンスのフェースブックページに掲載した内容ではあるが、このブログにも上げておきます。

WPPのトップが年頭にどんなことを発信しているかです。

今年68歳になるWPPのCEOマーチン・ソレルが「既存のマーケティング業界から、離脱」を新年から発表している。

IT投資を通して、いわばデロイトやアクセンチュア、のITコンサルティングの領域すらを上回る意気込みだ。

サー・マーチン・ソレルは一代でWPPを世界一のマーケティング・ホールディング会社に育てた事がすでに凄いことだが、エージェンシー(広告会社、と呼べない)が、どこを目指すべきか、CEOとしてリーダー自ら、くっきりとした指針と言葉を使って声明発表し、買収の基軸を打ち出せる事に敬服する。

日本の広告業界社長から、こんなセリフが聞けるだろうか。

この紹介原稿の中身を打ち出せないどころか、「読めない」「理解できない」「解ってない事がわかっていない」という状態であるのを感じる。

==旧来マーケティング業界からの離脱==

http://www.adexchanger.com/agencies/martin-sorrell-qa-wpp-will-broaden-its-tech-footprint/

======以下、AdExchangeインタビュー記事からの抜粋=======
世界の6大ホールディングカンパニー(WPP, Publicis, IPG, Omnicom, Dentsu, Havas)は業界区分では「広告」会社として登録されているに違いないが、今や広告と、遥かに言えない業態に変化してしまっている。

「我々ビジネスは、過去5年に、超劇的な変化を起こした、残念な事は、まだその事実が理解できるレベルの人が、業界内に少ない事だ」

と、マーチンソレルが述べた。


2012年末、$70million 投資でブエノスアイレスのGlobant社の
株式20%を取得。社員2500人の大半が「技術者」である会社を買収した。驚くことに、この会社は、メディアバイイングなどの
アドテクノロジーを直接開発している訳ではない。
(企業のイントラシステム開発、データベース構築、モバイルインテグレーション等)
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Q:トラディショナルマーケティングの領域に留まるか、
それとも(まるで)デロイトやアクセンチュアのような
テクノロジーコンサルの領域に踏み込むつもりなのか?

マーチン・ソレルAnswer:
デロイト、アクセンチュア以下だが、SapientNitroや、
http://www.sapient.com/
Cognizants以上だと確信する。
http://www.cognizant.com/

これまでのエージェンシーは通常CMOをターゲットとしていた仕事が、
徐々にCIO、インフォメーション・テクノロジー向けに変化しているのは明らかだ。
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Q:アルゼンチンのGlobant社 株式取得の件についての、説明を。

A:業界全体の課題だが、どうもクリエイティブや芸術的な目線のみでビジネスを評価したがる。
どちらかと言えば、技術的視点では、評価されない傾向がある。WPPは違う。


今回資本提携したGlobant社は2500名もの技術者をラテンアメリカとUK方面に抱えている。

24/7社を買収して以来、独自技術としてWPPトレーディングデスクのXAXISに注入した。
独自独占技術で、我々にしか見えないインサイトをレバレッジに、クライアントの中に蓄積されているデータを、より意味のあるものに仕上げていく。

Sapientを見るが良い、技術会社が、Above the lineのクリエイティブ会社(Nitro)を買収したではないか。
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Q:でも、あの事例は、クリエイティブ良い人材が、飲み込んだ技術系から追い出されてしまっただけでは?

A:SapientNitroは、確かにそのケーススタディとなってしまった。
WPPでは新たな試みとして、
Globant(アルゼンチン会社)の技術をを、JWTや、Y&R、Kanterへの注入を試みている。
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Q:WPPトレーディングデスクのXAXISはメディアバイイング会社同士の中で、横断的な機能を司るのか。

A:Xaxisは現在14カ国に拡大中で、中国にも進出できている。

これほどのトレーディング(技術)デスクを横断的に持つ競合は
Havasがほんの小規模で後続しているだけで、他は無いだろう。

成功の可否は、WPPの特許とも言えるこれらのツールをクライアントがどれだけ使うか、で計ってもらえればいい。
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ラテンアメリカは、2014年にFIFAワールドカップと、2016年にリオデジャネイロでのオリンピックが決まっている。


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マーティンは別のインタビューで、WPPが24/7を買ったころから、考えが急速に変わったと言っている。

ああ、あのころなんだな・・・と今にして思う。

「デジタルが自分たちのビジネスを変えてしまっている」ことに対する理解を、今の経営はしっかりしているか・・・。

デジタルの知見は、それまで素人だった者が改めて追いかけて何とかなる時期はもう5~6年前にとっくに終わっている。
デジタル広告にももう15年以上の歴史があり、膨大な知見の積み上げがある。
最初は単にネット広告で始まったものは、デジタルマーケティングとマーケティングテクノロジーの理解という実にたいへんな勉強と実践によってでしか身につかないレベルになってしまった。

そうしたことへの理解も何もない者が経営することは全くもってナンセンスだ。

今年も業界予測を書いてみます。デジタルマーケティングに関わる業界のことです。今年は7つの出来事に整理してみました。


① DMP(データ・マネージメント・プラットフォーム)が始動する年
 
DMPとは何かが明確になる年と言い換えてもいいだろう。
オーディエンスデータセラーとしてDMPと、企業が顧客と見込み顧客データを格納し、分析するプライベートDMPと2つのDMPがあるが、ビッグデータの時代のマーケティングの本筋は、プライベートDMPの構築である。

 ビッグデータという概念のなかにおけるDMPの位置づけがはっきりする年、それが2013年だろう。

 企業、ブランドごとに個々のユーザーにどんな意味や価値をもたせてセグメントするかは個々の企業でしかできない。有効なセグメントで、コミュニケーションだけでなくサービスを差し分ける。これが次世代マーケティングである。

 そのためにも、企業の持つファーストパーティデータと、サードパーティデータを有効にクロスさせてみる必要がある。プライベートDMPを構築するためにも、データセラーとしてのDMPを活用することが肝心だ。

 ビッグデータ格納とプライベートDMP構築の前段として、CRMと広告を繋ぐ試みが、いろんなところで始まるだろう。


② 動画DSPが始まる年

改めて動画のネット広告が活性化するだろう。
特にスマホへの動画配信が急速に市場を形成する年になる。
 
PCの動画枠インベントリーも増えるだろうが、スマホの動画の方がより効果的との見方も出てくることによって、スマホ枠が開発されインベントリーも増える。

インプレッション効果を購買行動と紐付けた調査も可能になるはずだ。
TVCMとは違うデジタル広告用の動画CM素材を作ろうという動きが始まる年にもなるかもしれない。
日本でもEコマースの業界が、動画に注目し始める年になるだろう。
既に多くの実績が米国で出ている。
TV通販の効果減退が、こうした流れを活性化するはずだ。


③ オーディエンスデータプランニングが試行される年

特にネット広告のメディアプランニングでは、「枠」から「人」の大きなパラダイムシフトで大変革を求められる。

例えば、メディアレップには大手代理店ですら管理できない広告メニューデータベースがある。万の数に及ぶネット広告の広告メニュー情報をアップデートしているのが、メディアレップの最大の価値である。しかし、媒体情報がメディアプランの根幹でなくなったら・・・、クライアントのもつオーディエンスデータから組み立てることになったらどうなるか。

当然、メディアレップは「枠」のプランニングだけでなく、オーディエンスデータプランニングを志向するだろう。しかし事はそう簡単ではない。クライアントと直接、しかもかなり深くインターフェイスする必要がある。

それに、プランナーにはコミュニケーションの知見とデータ分析の知見が必要である。
ブランドのターゲットプロファイルを理解し、ファーストパーティデータをセグメントできるかどうか。これを複数のメンバーにスキル化して習得させることができる人材はそういないだろう。

米国のエージェンシートレーディングデスクのOEMでも比較的大きなシェアをもつMediaMathの管理画面上では、ブルーカイなどのDMPからカテゴライズされたオーディエンスデータを配信対象に選ぶことができる。データ料がCPM○ドルと管理画面上から買うことができる。
こうしたテクノロジーとメソッドが米国から輸入されても、実際のプランニングは容易ではない。上流でのオーディエンスデータプランニングを設計するコンサルが要る。

とはいえ、オーディエンスデータプランニングは確実に時代の要請となる。これをこすスキルは当然まだ確立していない。今年1年では到底確立というところまで行かないだろうが・・・。


④ オペレーションスキルの重要さが顕在化して見える年

DSPやリスティングという入札と3PASによる配信、クッキーの一元化やコンバージョンパスデータ分析、またはソーシャルモニタリングなど、管理画面と常に向き合って適切なオペレーションを適切なタイミングで行うことがさらに重要になる。また管理画面から的確な情報を抽出することが従来にない大きな価値を生み出すことになる。

オペレーション業務をしているからこそ、読み出せる「顧客の文脈」というものがある。コンバージョンパスデータ分析もより簡易に出来るようになるだろう。ただ操作に長けていない者が扱っても、うまく「情報化」できない。ましてや自ら操作しない人たちには「文脈の発見」は出来ない。

総合代理店の人材はそれに対応できるか?

「トレーディングデスク機能をつくりました」というリリースがあちらこちらから聞こえた2012年だが、まだまだ単一のDSPしか対応しないとか、スマホだけだとか、本格的なトレーディングデスクとは言い難い。
 あまり詳細は語らないが、トレーディングデスク機能の進化の方向は今年明確になるだろう。


⑤ 大手代理店ワンストップの流れが変わる年

新たなプレイヤーの進出と、クライアント側のスキルの試される年

ブランデッドコンテンツやユーザーサービス開発ができる新たなパートナーをゲットできるか、またどういうオリエンやディレクションができるか。

企業のマーケティングメディアがTVを中心としたペイドメディアによる「広告」であれば、広告枠を扱う広告代理店にコミュニケーション開発を依頼する妥当性は高かった。しかし、広告枠を買うことが必ずしも前提でなければ、(つまり、「広告クリエイティブ」を依頼するのではなく、「ブランデッドコンテンツ」や「情報クリエイティブ」開発を依頼するのであれば、何も広告代理店だけがパートナーではない。

むしろ、ユーザーサービス開発までが企画発想できるプレイヤーを直接やりとりする方が、発注側のスキルも高くなるし、パートナーのモラールも上がる。
某外資デジタルエージェンシーの日本進出の理由のひとつが、有力広告主がデジタルクリエイティブファームとの直接取引を志向し始めたことを上げている。

しかし、広告主側にもデジタルのプロ集団と直接インターフェイスするためには必要なことも多い。優秀なパートナーは、優秀なだけにハンドリングが必ずしも容易ではない。
そもそも広告主企業側がコミュニケーション開発のプロセスの変革を実行しなければいけない。パートナーを新しくするだけではうまく行かない。
オウンドメディアとは企業自身のメディアだ。これを開発する知見は誰よりも広告主自身になければいけないし、意味がない。

  急速は対応には、テンポラリーでもスペシャリスト人材の登用が必要だろう。
  また、急速な対応が次世代のマーケティングをリードするには必須条件となっている。


⑥ マス広告を含めたマーケティングROI最適化の試みが始まる年

オンラインのアトリビューションは昨年のバズワードであった。しかしまだ本格的に第三者配信サーバーを導入してコンバージョンパスデータを把握し、かつリスティング広告のキーワード単位の入札価格やディスプレイ広告のコストデータをしっかり捕捉して、再配分のために活用している企業はほとんどないと言っていい。コンバージョンパスデータには、マーケターとしては実に興味深いデータが満載されているだろう。しかし、マーケティングコストの最適化のためには、これをリアロケーションに結びつけなくてはならない。
 オンラインマーケティング企業にとって、アトリビューションを志向することは当然のこととなるだろう。

 また、マスマーケティング企業でも、広告投資の最適化に対するトライが始まるだろう。マス広告を含むすべてのマーケティング投資の最適化について予測モデルを完成させるのは容易ではない。
 しかし、こうした最適化の実現性は従来よりはるかに高く、かかるコストははるかに安くなっている。
 多額なマーケティングコストを使っている企業ほど、こうしたトライによって得るものは実に大きい。
 その意味でも、目的変数である商品の売上げと相関するKPIをネット上に創出できた企業のチャンスは大きいだろう。

 さらに、Webサイトやネット広告配信によって測定できるデータは、ネットの最適化にとどまることなく、マーケティング活動全体の最適化に資することになる。説明変数として捉えることが難しい「クリエイティブ」についても示唆を得ることができるだろう。


⑦ 「どこに頼むか」から「誰に頼むか」がより顕著になる年
 

 2013年は、広告主企業側のデジタルマーケティングシフトの具体的アクションが顕在化する年となるだろう。それは組織や人材、実際の取組み、メソッド、パートナーなどが新たになることでもある。ということは広告会社における「デジタルの専門性」を育成する段階は既に終わったということだ。

 今現在デジタルをコアにした、または必須条件とするマーケティング施策を担わせることができる広告会社は限られているが、「出来る人材」は流動化し、再編されるだろう。
「どこに頼むか」から「誰に頼むか」はより顕著になる。コミュニケーションプランナーやクリエーターのアサインのためのコンサルが必要かもしれない。また、広告主企業のテクノロジー導入コンサルもニーズが高まるだろう。

 さて、次の闘いは始まった。
当然、既存の広告業界内での闘いはもう本丸ではない。

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