ベムのコラム: 2012年5月アーカイブ

ブランドサミットでのアラン・シュルマン氏の「ジャズ演奏におけるグループモデルから学ぶブランドマーケティングイノベーション」にたいへん触発されました。
昔「ハイネケン・シティ・ライブ・ツアー」というイベントを担当した経験があり、長年続けたツアーの最後が今では懐かしい芝浦インクスティックでのマーカス・ミラーでした。同時期に来日していたマイルス・デイビスとデビッド・サンボーンがマーカスの公演を観に来ました。
私はロック少年でしたので、むしろジャズはジェフ・ベックの「ブロウ・バイ・ブロウ」がきっかけで、「リターン・トゥ・フォーエバー」とかいわゆるフージョン系を聴いたりしましたが、基本ジャズは仕事上での付き合いです。
 さて、先日の話を、中学2年でバンド組んで以来約40年ロックバンドの一員である自分自身が体感的に理解できるロックバンドモデルに置き換えてみたいと思います。
 ロックという音楽ジャンルに関しては、私なりの定義があって、そもそも白人(特にブリティッシュ)が極めて意識的にサウンドを作り上げたもので、リズム&ブルーズやロックンロールとは違います。ルーツがアフリカの人たちの生まれたときから身についているリズム感には到底かなわないことを悟った人が、人工的に創った音楽だと思います。なので、人生の機微を詠うだけでなく、より社会的な「メッセージ」を放つための道具になったのだと思います。ただ当然、ロックンロールやリズム&ブルーズをベースにはしているので、「ノリ」(ジャズだとスイング感)とかビート感によって、そのメッセージがよりドライブされるようになっているのです。
 ギター小僧だった私にはロックギターの「リフ」と呼ばれるフレーズをどれだけ自分の指に覚えさせるかがテーマでした。「リフ」というのはもちろんロックだけで使われるわけではありませんが、特にロック、そしてロックギターには一種の『音楽的アイディア』と捉えられます。語源は定かではありませんが、Rythum Figure「リズム原型」やRefrain「リフレイン」から来ているといわれています。
 コアアイディアである「リフ」を主にギターが奏でることが、ジャズとロックの違いでもあります。ただロックバンドのメンバーは全員それぞれの楽器で「リフ」に入魂すべく演奏するのです。ビート感ある「リズム」セクションによって担がれた音楽的アイディアである「リフ」。そしてこの「リフ」によって、言葉による主張である「メッセージ」がドライブして刺さってくるのがロックの真髄です。そしてそこにギターソロやドラムのおかずがあって聴いている者の満足感は最大化されます。rockbandmodel1.gif

 これをマーケティングプラットフォームに置き換えてみます。
マーケティングメディアをPOEに整理したのが、「トリプルメディア」ですが、誰とのリレーションを担当するのかという機能で整理すると、メディアリレーション、カスタマーリレーション、そして今は、ソーシャルリレーションの3つかと思います。そこにWebマネージメントないしWebサービス部門がクロスするイメージです。

 メディアリレーション機能には「広告」と「広報」、カスタマーリレーション機能には「CRM部署」「カスタマーセンター(お客様窓口)、そしてソーシャルリレーション機能には今後のカスタマーリレーションとパブリックリレーションの融合を見据えた統合部署とWebサイトとソーシャルメディアを統合して繋ぐ部署が相当します。これらの機能に対して各ブランド担当者(つまり個別ブランドの売上利益責任を負う担当者)がマトリックス型に関わることになります。(これが次世代型のマーケティング体制と考えます。)
 
 
 ブランドサミットでの私のプレゼンでは、広告とCRM、ソーシャルとWebサイトという軸に対して、それぞれがクッキーや会員ID、顧客ID、ソーシャルアカウント(ID)が紐づいていくこと。それに対応して、企業内のそれぞれの担当部署(宣伝部、CRM部署、Webサイト担当、広報、ブランド担当者など)がいかに回路を繋ぐかというテーマとしました。どうしたら繋がるか・・・。それはまたの機会にして(そこがコンサルとしての私のビジネスですが・・・)

 さて、メッセージという点では、ロックのメッセージもマーケティングメッセージも同じです。ただし、ただ歌詞を叫ぶだけでは伝わりません。リスナー(ないし観客)が「カッコイイ!」と感じる「リフ」に載せないといけない。
 そして「リフ」を最も「かっこよく」聴かせるためのリズムセクションのビートが必要です。
 
 その意味で、マーケティングメッセージ(歌詞)をつくるのはブランド担当者です。

そして「リフ」つまりコアアイディアにあたるものをつくるのは、従来広告代理店にほとんど投げていましたが、キャンペーンモデルでのマーケティング施策には限界があります。オウンドメディア、ソーシャルメディアでも展開するマーケティングプラットフォーム型施策にシフトするとなると、主に広告代理店とインターフェイスしてきた「広告宣伝」だけでなく、「広報」「Webサイト制作」もちろん当事者であるブランド担当も対象です。また今後はCRMから新規顧客獲得のための対象者やインサイトを発見することも可能なので、CRM部署の参画も非常に有効です。いずれにしても現状のどの部門がやるということではなく、メディアリレーション、ソーシャルリレーション、カスタマーリレーションの3部門からとブランド担当の4者がチームを組むことが必要です。
 そのためにも、出来るだけ顧客および未来の顧客を把握することが重要なので、①広告とCRMを繋ぐ、②Webサイトとソーシャルメディアを繋ぐ、③WebサイトとCRMを繋ぐ、④広告とソーシャルメディアを繋ぐ、⑤CRMとソーシャルメディアを繋ぐ、⑥広告とWebサイトを繋ぐ、という回路接続によって、「顧客の発見」、「将来の顧客の発見」、「顧客の文脈の発見」、「顧客インサイトの発見」、「ゴールデンパスの発見」、「KPIの発見」を社内共有情報のなかで把握すべきなのです。
 
そしてリズムセクションにあたるのが、プラットフォームを運営するメンバーです。最適なテンポで、かつメリハリを利かすのがポイントでしょう。運用の上手下手でパフォーマンスが大きく違うのは言うまでもありません。
 プラットフォーマーはパフォーマーでもあります。
 リズムセクションはバンドの中でも最も息が合っていなければなりません。ドラムとベースは、企業内セクションでいえばWebマネージメント部門と広告・広報部門です。ちょっと言い換えるとテクノロジー部門とマーケティング部門という感じでしょうか。いずれにしても従来ないセクションを新たにプラットフォーム運営部門として最初は横断プロジェクトとしてスタートするイメージです。そして従来交わることがなかったテクノロジーとマーケティングが最も息のあったベースとドラムになることが最大のポイントでしょう。rockbandmodel2.gif
ロックのメッセージ = マーケティングメッセージ
リフ = コアアイディア
リズムセクション = プラットフォーム運営 

 ただ、歌詞(メッセージ)をつくる人がボーカリストになるかどうかは別の問題です。ギタリストがつくってもいいわけです。ギターのリフも必ずしもギタリストでなければつくれない訳ではありません。バンドのいいところはいっしょに活動していることでお互いの良さを理解し合い、長所を引き出すことができることです。
 
 というような話を今、レッド・ツェッペリンを聴きながら書いています。ロック界最高のドラマー、ジョン・ボーナムと3大ギタリストのひとりであるジミー・ペイジ、そしてロックボーカリストとしても3本の指に入るロバート・プラント、しかしこのバンドはジョンジーこと、ジョン・ポール・ジョーンズが支えていたかもしれません。
 彼の音楽性の広さと深さが、尖がった3人を融合させ、最高のバンドに仕上げたように思います。
 いちばん融合すべきそれぞれの領域に精通した企業内のジョン・ポール・ジョーンズは誰になるでしょうか。その人が次世代の企業マーケティングのプロデューサーかもしれません。

 少し前のエントリーで「KPI」について書いたが、ネット上にゴールがないリアルな販売チャネルをもつ企業にとって、KPIの設定は難しい。というのも、コンバージョンといえるユーザーアクションは設定できるものの、流入量とコンバージョン量があまりに差があると、最適化のための施策チューニングがうまくいかない場合が多いと思われる。KGIと相関のあるKPIは設定できるが、そのKPIだけでは広告を含む流入の最適化が難しいということである。

 つまり、広告で数百万のUBに到達させていて、その1%を直接、間接効果でWebサイト誘導できたとして、その中からコンバージョン率が1%とすると、広告接触者の0.01%がやっとコンバージョンすることになる。これもネットでの販売ではないのだから、例えば自動車会社で言えば、カタログ請求や試乗予約申し込みということになる。
 このコンバージョンを照準に広告投下方法(ターゲティングほかの)に対して直接チューニングをかけることは、もちろん出来ない話ではないが、目盛が大きすぎて微妙な調整が利かない感じが否めない。

 そのために、第1KPIを最適化するための、大きな相関性をもつ第2KPI(当然量的に第1KPIより多いアクションを獲得できる指標)を設定できるといい。KPIのKPIをつくって、そこで流入の最適化をチューニングするほうがやりやすいのではないかと思う。

 あるいは、商品カテゴリーによっては、消費者(将来の顧客)に対するナーチャリング(育成)活動が必要なものが多い。その商品、ブランドを「自分と関係があるもの」と感じてもらうこと、そしてその商品ブランドそのものの理解を促すこと、この2段階が必要で、消費者にそれぞれにある文脈ごとに、商品ブランドとの接点を用意することが求められる。

 そのためにも広告だけでなく、コンテンツも含んだアトリビューション評価をする必要がある。マス広告、ネット広告(ディスプレイ広告、リスティング広告)自然検索、を含むすべての流入と、Webサイト内のコンテンツや施策を経てのコンバージョン(第1KPI)を総合的に観測評価して、ネット上のKPIそして最終ゴールの最適化を求めることが理想だ。
 次回のエントリーでは、マス広告を含むトータルアトリビューションについて書いてみる。

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DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)とRTB(リアルタイム・ビッディング)そしてオーディエンスターゲティングというネット広告の全く新しいバイイングシステムとそのターゲティング手法について解説する本を出版しました。

目 次

第 1 章 広告配信の進化と DSP/RTB の登場
Chapter 1-1 進化した広告配信
Chapter 1-2 DSP/RTB の基本的な仕組み
Chapter 1-3 DSP/RTB/SSP の取引形態
Chapter 1-4 トレーディングデスクの業務
Chapter 1-5 DMP の役割
Chapter 1-6 アドエクスチェンジというビジネス
Chapter 1-7 「枠」から「人」へのパラダイムシフト

第 2 章 オーディエンスターゲティングの基礎知識
Chapter 2-1 内部データと外部データンプレッションを判断するためのデータ
Chapter 2-2 リターゲティング拡張で配信先を広げる
Chapter 2-3 ネットの行動とリアル行動の統合
Chapter 2-4 人の連想ではできないデータから読み取るターゲテティング

第 3 章 自動最適化のプロセス
Chapter 3-1 レスポンス(反応)を最適化する
Chapter 3-2 反応からターゲットを探す
Chapter 3-3 予測モデル
Chapter 3-4 フリークエンシーとロードバケット

第 4 章 DSP を活用したデジタルマーケティング戦略
Chapter 4-1 リスティング広告依存からの脱却
Chapter 4-2 3STEP パーチェスファネルの構築
Chapter 4-3 並列のメディアプランから直列のコミュニケーションプランへ
Chapter 4-4 インプレッションを計測する
Chapter 4-5 CV までのフェーズをブレイクダウンする
Chapter 4-6 サイトのシナリオと評価軸を構築する
Chapter 4-7 コンシューマーディシジョンポイントを発見する
Chapter 4-8 フェーズごとのメッセージ・クリエイティブ設計
Chapter 4-9 リスティングやメールなど他施策と統合する

第 5 章 DSP/RTB が切り拓くデジタルマーケティングの未来形
Chapter 5-1 世界中のインプレッションにアクセスできる時代
Chapter 5-2 EC のグローバル化で世界中にキャンペーン
Chapter 5-3 スマートフォン DSP と 4 スクリーン
Chapter 5-4 マスマーケティング企業のための DSP 活用
Chapter 5-5 トリプルメディアマーケティング時代の DSP 活用
Chapter 5-6 デジタル CMO が活躍する時代

第 6 章 プレイヤーの動向
Chapter 6-1 フリークアウト「FreakOut」
Chapter 6-2 プラットフォーム・ワン「MarketOneRTB」
Chapter 6-3 Platform ID「Xrost」
Chapter 6-4 マイクロアド「MicroAd BLADE」
Chapter 6-5 海外のプレイヤーの状況

補稿 日本のネット広告の歩み

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 DSPを広告バイイングの新手法として研究すると、顧客化したユーザーを分析して、顧客になってくれそうなユーザーに広告を配信するという考え方ができる。(しかも可能性の高い見込み客には入札価格を上げて必ずゲットするとか・・・)
 実はベムはおそらく日本で初めていわゆる「リターゲティング拡張」の実験をした張本人である。あるリコメンドエンジンによる「クッキーとクッキーの繋がり(グラフ)」に企業サイト訪問者のクッキーを持ち込んで、サイト訪問者と「似ている」人(クッキー)を配信先とする手法である。リターゲティング広告がパフォーマンス効率は良いが、効果の絶対量が獲れないという欠点を補うものだ。
 この手法の考え方は、サイト訪問を果たした(ないし何らかのコンバージョンに至った)ユーザー情報をベースに新たな顧客獲得のための「広告」を打つという考え方である。

 広告をパーチェスファネルの下から遡っていけると、ファネルの上からつくっていくプロセスではできないことがかなりある。
 従来の「認知」からスタートするコミュニケーション開発では、広告を送り手(広告主とクリエイティブ開発のプロとしての広告会社)だけで作り上げる。ターゲットも想定してはいるが、そのコミュニケーションが、ターゲットが反応するものになっているか、つまり誰が反応したかは最後まで分からない。
 その結果、「認知」を主な目的とするマス広告と、ある程度関心が顕在化した後の購買意向を後押しするネット広告やWebサイトとの連動性がほとんどない状況になっている。
 いわばプッシュの接点とプルの接点の接合が出来ていないのが現状のマーケティングコミュニケーションと云える。
 
 しかし、顧客化したユーザー、ないし見込み客としてクッキーで認識できるユーザーからの逆引きで、新規顧客のターゲットとその「認知のあり方」を設計することができると一連のコミュニケーション活動は紐づいてくる。

 そのためにも「顧客とは誰か」を十分知る必要がある。この何年も広告業界では「消費者インサイト」とか「顧客インサイト」というワードが頻繁に使われるようになった。情報爆発で広告が効きづらい環境にあって、「消費者の琴線に触れるコミュニケーションを」ということなのだろうが、そもそも「顧客が誰か」が分かっていないのに、「顧客インサイト」もない。
 実際の顧客のプロファイルを理解することから、そのインサイトを探ることが可能になるのではないか。その「顧客と将来の顧客」の行動パターンをリアルとネット上で捕捉することはマーケティングの進化の大きな要素のひとつである。
ビッグデータを本当に駆使できるマーケターはそう多くはないだろう。マスマーケティング型のファネルの上層から思考する人と、ダイレクトマーケティングで刈り取り部分しか評価してことがない人が、完全に分離しているからだ。ビッグデータから顧客や見込み顧客の行動の相関を発見して、効果的なコミュニケーションの再設計ができるのは、コミュニケーション開発プロセスを理解、経験した人でないとそううまくできない。しかしデータをじっくり渡り合うスキルは既存のそういう人たちにはできない。データの大海原に浸るのが平気な人も仮説というストーリづくりがないと「意味のある」データは抽出できない。「ビッグデータ」を声高に言う人たちは当然IT系に多いのだが、おそらくマーケティングコミュニケーションの実践経験の乏しい彼らには「意味の読み取り」は難しいだろう。その意味で「ビッグデータ」を駆使できるスキルと人材を育成しなければならない。
 
 ただ、そうした人材をどうつくるかだが、私はブランドコミュニケーション開発とかイベントプランナーのような顧客の体験プランニングをしたことがある人材に、デジタル/ソーシャルの勉強を徹底してやってもらう。当然、ネット広告やWebサイトプロデュースの経験もSEMを含めしっかり実践してもらい、ログ解析データをしっかり読み取る訓練もしてもらう。ユーザー行動をセッションベースではなくクッキーベースでしっかり見定めるスキルを養い、「顧客と将来の顧客」の発見を実践し、ターゲットを実証する。そこから実証したターゲットが最も反応するメッセージ開発をするという一連の作業を理解し、プロデュースできるスキルである。
 自分でもこう書いていて無理難題を言っている感じは否めない。しかしシステムやツールばかりが先行し、それを使いこなす人材があまりにいない現実に対しては、難しいなどと言っていないで、「育成」という行動を起こすことである。それしかない。

 DSPで日々の広告配信運用をしていると、TVスポットが入った時のCTRほかの効果が上がることを実感する。TVのパワーを最大限刈り取るには、TVで起きたプル(情報取得意向)を上手に手繰り寄せることが必要だ。それをしないと「もったいない」のだ。
 一方で、テレビを使うようなキャンペーン期間単位でしか、興味関心の刈り取りをしないのももったいない。「ビデオムービー」という検索ワードの検索数の年間推移を見ているとほとんど常時変わらない。しかし、広告キャンペーンは卒業入学シーズンと運動会シーズンの年2回ほどのチャンスである。ユーザー側には結婚式やお誕生日会のような通年の需要チャンスがある。入札モデルのDSPではわざと広告の需要期を外して「指し値」で買い付けるという戦略もある。「枠」を買ってキャンペーンを仕立てる従来の手法では、あまり考えつかないかもしれないが、入札出来高制の広告バイイングの特徴をうまく使いこなすことも考慮されたい。

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