ベムのコラム: 2012年1月アーカイブ

 企業のマーケティング活動は、キャンペーン施策中心から、マーケティング装置化したオウンドメディアを中心とした継続的かつPDCAサイクルを短周期で廻すことを前提としたものになり、いわゆる「広告」は短期的な認知獲得に役割が限定されていくようになります。(と思います。)だからと言って「広告」が死滅するわけではありません。ただ、潜在層(ターゲット)の認知を獲得するという機能を、できるだけ短期に効率的に果たせる機能がないと「広告」として生き残ることは難しいのです。しかもその効果はしっかり測定できないといけません。
 そうなると、テレビのプッシュメディアとしてのポジションはいっそう磐石となるかもしれません。ただ測定可能にするかどうかについて、またオーディエンスを選べるかどうかについてテレビは本気で考えないといけないでしょう。逆にテレビ以外のマスメディアのポジションは、いわゆる4スクリーンに対してかなり劣勢を余儀なくされると思います。

 いずれにしても、広告会社がマス広告の「枠」を売ることを前提に、その機能と職能を確立させてきていて、今もその「型」から脱却できないでいることはたいへんなリスクです。しかしどう脱却したらいいものかよく分からないというところでしょう。
 まず、広告会社の営業は何を売る人かを再定義しなければなりません。広告主(という言い方も変えないといけない)は「広告」が買いたい訳ではありません。マーケティング目標を達成するための手段のひとつとして「広告」も買っているのです。従来の広告会社の営業はマス広告の枠を買ってもらうために、クリエイティブ、マーケティング、プロモーション、PR・・・といったスタッフ機能を集め、メディア扱いをゲットするのが仕事でした。昔はいちおうマスメディアに関しては知見を有していて、クライアントにその情報を持ってきては丁々発止できました。しかし現在、広告会社の提供サービスも幅広くなり、専門スタッフが後方に待機していて、その都度クライアントに出向くようになりました。アカウントプランナーという機能が注目されるようになるのは、こうした広告会社でフロントに立つ者の総合プランニング力やプロデュース力が重要になってきたからですが、デジタルメディアによって変化してきたマーケティングに対応する能力を、従来の広告会社の営業フロントラインに期待するのは本当に難しいということは、ここ10年の試行錯誤で十分過ぎるくらい分かりました。従来の成功体験の上に知見を積み上げた人は、どうにもこうにも、デジタル対応の知見に組み替えるのは極めて難しいのです。それこそ遺伝子組み換えが必要です。


前回のエントリーで「自動車メーカーの経営トップが『ハイブリッドカーがどうやって駆動するか理解していない』などと言うことは有り得ないが、広告会社ではそういうことが起きている。」と書いたら、この一文に一番反応がありました。


やはりこの期に及んでデジタル知見がほとんどない人間がコミュニケーション産業の一端を担う会社の経営をしていてはいけません。
 もちろん経営トップだけでなく、次の層(経営者のはしくれには)にも、単に知識とするだけではダメで、経験と見識と知恵をもって未来型を構想する力がなくてはなりません。そして会社の未来のために最適なことを純粋に構想することが求められますが、会社の未来のためとは今の会社の人員と体制を維持するということではありません。少なくても20代30代の若手社員が生き残るためにはどういう業態変革を受け入れるかということです。
 広告業としてやってきた遺伝子の組み換えを受け入れるのです。今の業態継続が叶わないと理解し、それに替わるビジネスモデルの構想力が自身にないなら一刻も早く若い社員のために退陣すべきでしょう。若い社員も自分たちのことなのですからもっと勉強して、具体的な変革プランを上にぶつけていかないといけません。若手にそうした意識や意欲、才覚のないようなら、その会社には希望はないでしょう。
 個々の社員も生き残りをかけて自ら遺伝子組み換えにチャレンジしなければなりません。広告マン個人としての変革をし、会社は生き残らなくても、個人は次の時代もマーケティングコミュニケーションの世界で新たな飛躍をしていかなければいけません。
 それには何はともあれクライアントと直接コミュニケーションのとれるフロントに立って仕事をするということです。また出来ればクライアントのなかに常駐させてもらいましょう。最近の広告主は短期のキャンペーンの企画と実施を求めているというよりは、マーケティング施策を継続的に、様々なトライを続けるマンパワーを借りたいというのが本音です。広告マンの方も、ペイドメディアならともかく、オウンドメディアやアーンドメディア対応の本当の知見は広告会社の中にいて得られるものではありません。どんどんマーケター企業に入って行って、オウンドメディアの運用知見を自らのものにしなければなりません。広告主企業もそうしたスキルや素養のある人材が全く不足しているので、ウェルカムでしょう。そもそもマーケティングコミュニケーションに携わる人間は、出来ればマーケターとしての仕事とサプライヤーとしての仕事の両方のキャリアがあると鬼に金棒です。これからのマーケティングは正にそうで、トリプルメディアを統合的に関わることでしか得られない知見があります。

 未来の広告会社が(広告だけを売る会社ではなくなっているでしょうが)提供するサービスの付加価値は、広告マン個人個人の知見を育成していった後にしか再編成することができません。(これも出来ない人員をリストラして入れ替えてしまうことが出来れば別ですが・・・)
今の箱の中から飛び出していく気概がない広告マンは全く期待できません。企業の箱の中にいて良いのは、そこに居れば将来役立つ職能が身につく場合です。先輩にデジタルマーケティングの知見がない、スキルトランスファーが期待できない会社にいても意味がありません。若いのに、大企業だからと言って安閑としている者は将来生き残れないでしょう。そういう業種にいるのです。

先達の創ってくれたビジネスモデルはもうしゃぶりつくされました。またもうすぐ卒業するだけの人たちに改革を期待するのはバカです。若い広告マンは自らどうやって自らの遺伝子を組み替えるかよくよく考えてみてください。まだ若いのだから比較的簡単に組み替えられます。またネット専業にいる広告マンは「ネットにクローズドのマーケティング」だけではオペレーション力を買われるだけだということを考えましょう。だからその付加価値は決して高くないことを認識しましょう。ネットではなく、もっと広い概念のデジタルマーケティングを志向しましょう。ブランディングやコミュニケーションとは何かを知り、マス広告やリアルなプロモーション、PRの実態も経験しましょう。その方法論については、場合によってはベムがご教授します。

 
 DSP/RTBやオーディエンスデータを使って、広告配信を『枠』から『人』へシフトさせる影響は、ネット広告の最適化に留まりません。広告を打ちながら、調査しているようなものであるこうした手法によって得られるデータは、マスメディアを含めたマーケティング活動全体の最適化に資するものになるということです。従来自社サイトでの観測をもってすることはクルマなどの一部の業種やブランドでは可能でしたが、そうでない広告主企業がほとんどでした。しかし多くの業種でも外部データを用いることや広告反応を手繰り寄せることで、可能になってきています。そうなってくると、ネットに閉じた知見だけではあまり役に立ちません。また『広告』に閉じた知見だけでもあまり役に立ちません。『マーケティング』、『組織人事』、『戦略的ビジネスプロセス』にも通じていないといけない。(今企業が一番必要なのはデジタルマーケティングシフトによる再編のための構想力です。)この事態は広告会社が想定していない。つまりそうした知見や職能が開発されるような組織がないし、そもそもそういう仕事をしていないので、出来る人がほとんどいない。本人の資質でこういう能力が偶然開発されるのも待つしかないのです。当然、何の戦略的意図もなく偶然対応力のある人材がいても会社のなかに引きとどめることは難しいでしょう。

いずれにしても、『「枠」から「人」へ』のパラダイムシフトは、広告を生業にしてきたものには劇的な変化です。「手売り」だから何とかなっていた「中抜き」も当然加速しますし、そもそも広告代理店のメディア部門やメディアプランナーは今後何をするのでしょうか。知見はトレーディングデスクのオペレータに貯まり、広告主は彼らと直接運用方針をやりとりするでしょう。そうでないと競合に負けるからです。
またそれ以上にデジタルが分からない営業フロントラインは今後も存在し得るのでしょうか。マスメディアを含めた施策について、ネットでの全数調査を兼ねた広告出稿分析がその方向性を決めるとすれば、デジタルマーケティングがマーケティング全体の設計にとってコアになるとすれば、従来のデジタル対応できない人材はそもそも広告業界には不適格ということになります。欧米では広告会社の看板をそのままに従業員をリストラしてデジタル対応可能な人員に入れ替えてしまいます。広告主企業も経営トップが若いせいもあるでしょうが、デジタル対応、ソーシャルメディア対応が早く、またマーケターサイドとエージェンシーサイドの人材流動性も高いので、知見の共有が進むということがあります。ペイドメディアを買うことがマーケティング活動のほとんどだった時代は、ペイドメディアの情報を握っている広告会社は、広告主に対して優位なポジションを得ることができましたが、オウンドメディアでは自ら構築運用する広告主には逆立ちしても勝てず、ソーシャルメディアでも運用で顧客との会話スキルが進む広告主には全く敵いません。

日本の広告業界でいえば、もうとっくの昔に変換していなければいけないことや人がいまだに「しがらみ」の状況にあるということがあります。経営が現場で対応していること、もうそこが本丸になっていることについてほとんど分かっていない、理解できないという極めてクリティカルな状況にあります。自動車メーカーのトップが「ハイブリッドカーがどうやって駆動しているか理解していない」なんてことは絶対ありえないのですが、広告業界ではそれがまかり通っているわけです。信じがたいほどに・・・です。
 そうした認識は今年から急激に広がるでしょう。広告主は『広告』が買いたい訳ではありません。マーケティング目標を達成し、ビジネスを成功に導きたいのです。それにこたえるための知見をもった「人」にサポートを依頼したいのです。広告主は広告会社の経営者を面接すべきでしょう。広告会社の経営者は一件この状況を認識しているようなことは言うでしょう。しかし自分でしっかり理解できていない者はすぐ分かります。
だから面談して、変革の時代に経営者に認識や理解のない会社との取引を見直すべきでしょう。経営者に本当の理解のない会社では、たとえ良くできる人材がいても、その人材が実力を発揮できる環境をつくり得ないのです。その意味でも広告会社には経営者の『経営力』が大きく問われる年となるでしょう。そうした広告主の期待に応えることができない広告会社の本格的な解体が急速に始まる年、それが今年2012年といえるでしょう。
景況感でいえば、マーケティング活動への投資は決して少なくないでしょう。それだけにむしろ優勝劣敗が明確になる年になると思われます。

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