ベム: 2013年8月アーカイブ

 オムニコムとピュブリシスの経営統合を受けて、注目されているのが、WPPがどう動くかである。マーティン・ソレル氏のことだから、そのまま黙って観ている訳はないというのが大方の見方である。

 ピュブリシスオムニコムの大連合に対する対抗策というと、基本選択肢は2つであろう。
そうです。IPGと連合するか、電通と連合するかになる。
 WPPにとって、グローバル展開のなかで、最も手のついていない、かつ独特の商慣習とメディア支配で、いかんともしがたい日本市場(世界3位の広告マーケット)をどうするかを基準に考えると、WPPは電通と組むメリットは確かに大きい。しかしこれは電通さん側から見て、どれだけのメリットがあるかというと、あえて呑みこまれてハッピーになる感じはないだろう。個人的にも、日本資本が頑張って欲しいし、イージスを統合した決断の末、WPPに呑みこまれる選択があるようには思えない。

 もうひとつの側面は、ピュブリシスオムニコムが、米国市場でWPPの2.35倍に膨らんだことに、どう対抗するかだ。
 おそらく米国連邦取引委員会では、今回の合併を審査するだろうし、そう簡単に承認される話ではない。
 当然、世界最大の広告市場アメリカで、ここまで引き離されることをマーティンが容認するかというと、なかなか看過しづらいだろう。
 そうなると、IPGがターゲットだが、こちらも相手があることでもあり、簡単ではないはずだが、あまり勢いのないIPGがどう考えるか・・・。

 それにしても、今回のピュブリシスオムニコムに関していうと、ずいぶん双方のお爺さん経営者同士の、ちょっと世代感でいうと、昔の人たちの合意であるという感じが否めない。
 マーティン・ソレル氏もそろそろ70に手の届く年齢ではあるが、彼らよりはるかに次世代マーケティングコミュニケーションを理解しているものと思われるし、デジタルに関しても相当勉強していて、理解している。当然デジタルを理解している若い人材を積極登用し、そばに置いている。元24/7のNo.2をWPPのデジタル戦略担当に置いているし、そのあたりは抜かりない。そういう意味では、デジタルでWPPに対抗できていたメガエージェンシーはピュブリシスであったので、トップはお爺さん同士でも、デジタル戦略において、むしろ旧オムニコム側のメリットは大きい。
ここで面白いのは、ATD(エージェンシー・トレーディング・デスク)が戦略的に囲い込もうとしているデータであり、僕もATD/DMPでいうと、スケール感ではWPPのXaxisしか残らないだろうと思っていたので、今回の巨大エージェンシー統合の裏には、データ囲い込み戦争があることには間違いない。

お爺さん同士の発表では、あさはかにも、「データの統合により消費者データがGoogleに対抗できる」てなことを、「言ってしまった」感がある。アメリカ当局、それを参考にするフランス当局がこれからどう判断するかは、注目か・・・。
Adageのチーフエディターが「データの統合、ってあからさまに言ってはいかんでしょ」と言ってる。
http://adage.com/article/viewpoint-editorial/publicis-omnicom-s-data-play-wrong-approach/243480/

エージェンシー側から見ると、インハウスDMPという広告主によるデータ主導権奪取に危機感をもっているに違いない。
 いかに大企業であっても、個別にDMPをつくるよりも、DSPによる広告配信のデータを最適化するには、ATDを使った方が、データが大きい分、より最適化が効くということにしたいのだろう。
 しかし、インハウスDMPの流れは、XaxisやピュブリシスオムニコムのATD統合を受けても揺るがないだろう。何故かというと、DMPは広告を最適化するだけのものではないからだ。
 そこでITサービス事業者との激突が起こるだろう。彼らもマーケティングのフロントに進出しようとしてくる。彼らは、広告は自分の領域ではないので、DMPを広告の最適化などというマーケティング全体から見れば一部でしかない行為ではないと主張してくるだろう。実際、広告の最適化だけより、商品開発、流通、生産、労務などを最適化する方がはるかにPLへのインパクトが大きい。データサイエンティストを全面に押し出して、マーケティングの領域に進行するだろう。マーティンは逆にWPPはCMOからCIOの領域にも進出するんだと檄をとばしているが、エージェンシーがCIOの領域に踏み込むのはそんな簡単ではない。そもそもWPPからすればお客様であるIBMさんがIBMインタラクティブでどんどん成長していることをどう思っているんだろうか・・・。

 さて、面白くなってきた。
 僕は広告業界同士の連合という企てを96年にしてみたが、今はエージェンシー同士が手を組む意味はほとんどない。シュリンクする市場の弱者どうしはお互いになんのメリットもないだろう。淘汰されるべきは淘汰される。
 様々な業界が再編されてきたなか、いまだに手つかずの放送業界にぶら下がって、自身も変革の波から逃げ続けてきた広告業界も、業態変革を突き付けられる。おそらく今いる従業員の8割は使い物にならない業態になることを認識して手が打てる経営者がいるエージェンシーだけが生き残る。

 プライベートDMPの導入コンサルを依頼される機会が非常に多くなっている。
企業がDMPを導入するなかで、トライすべきことのひとつが、自社でブランドごとのリターゲティング拡張のロジックをつくることだ。
 DSP事業者のブラックボックスの拡張ロジックを試して、DSPプライヤーを評価してもあまり意味はない。自社ブランドに一定以上の関心を寄せたユーザーに「似た」人とは(どう似ていることが、ブランドに反応する要素なのか)を突き止める必要がある。

 これはつまり、プルを獲得した人を分析して、プッシュをターゲティングするマーケティング技術である。

 ベムはおそらく日本で初めてのリタゲ拡張の実験を行ったことがあるが、拡張ロジックがブラックボックス状態では全く意味がなく、CPAさえ改善されれば良いというネットに閉じた施策になってしまう。認知してもらうべき対象をターゲットしてプッシュする作業にプルのデータを使うというこの施策は、まさにデジタルとマス/リアルを繋ぐものだ。

 Webマーケティングが本格的に始まってから十数年。マーケティングの大きな課題に「プルの接点とプッシュの接点をどう繋ぐか」ということがあったと思う。
 そのひとつの解答が、自社で自社ブランドの拡張ロジックをつくり、実際にパフォーマンスを検証する作業で得られると思う。これはプライベートDMPを導入する意味のひとつだ。

プルの接点.jpg

 この作業で得られる情報(インテリジェンス)は、すべてのマーケティング活動(マス、リアルを含む)の最適化に資するだろう。

DSP/DMPに関わるデータ類の一分野に、広告反応データによるResult Learningがある。どんなクッキーが、どんな掲載面で、またどんなタイミングで配信された広告が良い反応を得たかなどが広告反応データということになる。もちろん変数はこれだけではない。

DSPと言うと、配信先クッキーの特定ばかりのように考える向きもあるが、実際には商品カテゴリーやブランドの特徴によって、反応変数は変わる。比較的購買リスクが高く、検討期間もそれなり長い商品カテゴリーでは、クッキーを特定するターゲティングは効果的なはずだが、そうではない商品では、必ずしも配信先クッキーばかりを追いかけるのが広告パフォーマンスを高める手段ではない。もちろんどんな掲載面が良い広告反応を得られるかは非常に重要なファクターとなる。これは広告に接触するユーザーの「モード」に合わせられるかどうかということでもある。どんな気分の時にその広告と接触するかであり、またある意味受け手のタイミングに合わせるという見方もできる。
リスティング広告とはまさに関心が顕在化した検索行動に対してカウンターで広告情報がマッチングされる訳で、ユーザーのモードとタイミングに合った配信になっている。
 

 PDCAという考え方を進めると、答えのひとつは『自動最適化』になる。
広告配信結果をフィードバックして自動的に入札を最適にコントロールする。最適化の要素にはモードやタイミングを掲載面や配信時間などを含めて学習することになるだろう。
 

 前回のエントリーに書いたように、パブリッシャーは、広告収入を最大化したいのなら、コンテンツもマーケティングして、マーケティング価値のあるオーディエンスを多く獲得するようにしないといけない。単純にPVの多いコンテンツを追いかけると、ゴシップやエロコンテンツばかりになってしまうだろう。オーディエンス(その文脈とタイミングごとに)とコンテンツをマーケティングすることはDMPによって実現するだろう。

 象徴的に_「枠」から「人」へ_というキーワードを私も使うが、従来との構造変化を説明するためだ。しかし物事そう単純ではない。広告配信にとって当然掲載面は重要である。しかし、ユーザーと広告の個別のマッチング(オーディエンスとそのモード、タイミング)が最適化されるということであり、クッキーか掲載面のどちらがいいかという単純な話ではない。