ベム: 2012年10月アーカイブ

 「広告会社の行く末」では、広告会社の営業マンをやり玉にあげてしまったが、次は広告会社のマーケである。昔はマーケティング対象商品を企業シーズから組み上げるのではなく、コミュニケーション開発の目線から商品ブランドのコンセプトワークをする広告会社のマーケの役割というのが注目された時期もあった。

直接、エンドユーザーとコミュニケーションしづらいメーカーからすると、メディアと、メディアを通して消費者を理解している代理店の提案にはそれなりの価値はあった。しかし今、商品ブランドのマーケティングに関しては、広告主企業側の優秀なマーケターに対抗できるわけもなく、さほど優秀でない代理店のマーケの多くは、企画書の代書屋さんになっている場合が多い。

 営業の能力が比較的落ちてきて、ろくに企画書すら書けなくなったので、こうした需要が広告会社社内で膨らんだからとも言えよう。

 だいたい「ストプラ」と呼ばれるような「代理店のマーケ」は、表現戦略やメディア戦略を明示し、具体的なアウトプットを理論武装するのが役割だ。

 しかし、優秀なクリエーターは、何故こういう表現なのかというロジックを簡潔明瞭に説明できるので、企画書を何枚も書いてプレゼンに時間をかけるまでもない場合も多い。


従来、広告会社側に情報が多かった時代には、いわゆる「前段」で、クライアントが気付いていないことを提起できて、それに基づいたアウトプットを提案できた。
もちろん今でもこうした「前段」が決め手となってコンペに勝利するシーンもあるだろうが、代理店しかもっていないメディアの情報からアプローチしたり、クライアントが気づかなかった「消費者インサイト」を提起することは難しくなっていると言わざるを得ない。


 企業にとってのマーケティングメディアは「ペイドメディア」だけではなくなった。そしてオウンドメディアを持ち始めた広告主は、代理店よりはるかに消費者を知ることになる。広告主は「買うメディア」に関してのみ、代理店を必要とすることとなる。様々なテーマの中の「短期的な認知獲得」だけ「代理店さんお願いね」になってしまう。


 そもそも、広告会社のマーケがマーケティング施策を「こうすべきだ」と提起する時、何をもってそう判断するかのロジックはあるようでない。データを持ち出して論拠をつくるものの、ではそうしたデータがどのくらいだったら、どうすべきかという客観的、科学的理論に基づくことはあまりない。「データがこの閾値を超えたら、こうすべきである」という判断基準を明確にすることはほとんどできない。


それも仕方がないというか当然で、「そんなに単純にデータだけで判断ができるものではない」というのがマーケティングの奥深いところだ・・・なんていうようなマーケターの経験や知見による(能力による)判断がすべてだったころはそうだったであろう。


しかし、今後はそうはいかなくなる。データドリブンな判断や施策決定が求められるようになると、理論や経験的理論値から、データに閾値を設定して、これを超えたらどうするという方針が事前になければならない。具体的施策案ではなく、戦略方針である。高速PDCAを廻す場合、具体的な施策はまだしも、基本戦略ではどういう手を打つかは事前に設計されていないと、高速化できない。従来の年一回のキャンペーンであれば、代理店にオリエンして1カ月後提案を受けるスタイルでも良かったが、時間軸だけの問題でなく、そもそもキャンペーンモデルで対応するのか、から考え直さないといけない。

そして、ビッグデータ時代に、マーケティングに関わるデータはどこくらい広告会社が手にすることができるだろうか。まず代理店でなくても誰でも手に入る(当然広告主も)データがネットによって爆発的に増えた。クエリー情報などは典型だ。(グーグルトレンドくらいは当然使ってるだろう。)その上に、企業がもつデータは膨大に増えた。特にオウンドメディアにおけるデータだ。マーケティングコミュニケーションに関わるデータ測定を行うコミュニケーションダッシュボードの概念だと、ペイド、オウンド、アーンド、すべてのメディアを観測することになる。ペイドメディアで起きた効果(反応)も、オウンドやアーンドで観測するので、広告主企業が、「説明変数」をほとんど手にする。もちろん「目的変数」は当然企業側にしかない。


マーケティングダッシュボード2.jpg

*上記の図は日本インタラクティブ・マーケティングの真野英明氏の「マーケティングダッシュボードの概念図」に、ずうずうしくも少し書き足させていただいたものです。真野さん有難うございます。


その上、従来リアルな販売チャネルだけでなく、自社でECや会員化によるサービスを開発する企業が増えると、エンドユーザーと直接コミュニケーションできる。もう代理店は広告主企業にデータを貰わないと何も提案できなくなる。

 こうした時代に、代理店のマーケはいったい何が出来るのか。

 コミュニケーション(クリエイティブ)という「右脳」の作業にロジックらしいことを加える作業でやってきた代理店のマーケが、ビッグデータ時代の企業のデータドリブンな評価や判断をどうサポートできるのか。
 データを貰うとして、どこまで分析できるのか。ビッグデータからどんな文脈を発見できるのか。そもそもそんなことを企業は広告代理店に頼るのか・・・。
 
 岐路にあるのは、明白だ。

アンケート調査のような「意識調査」、つまり消費者に意見を聞く調査データからではなく、行動を起こしたログとしての「行動データ」から文脈を読み出すことが、今の代理店のマーケに出来るか。勝負はまずはそのあたりからだ。

マイクロソフトに買収され、その後またAgency部門は売られてしまったaQuantiveは,
もともとは、アヴェニューAレイザーフィッシュというエージェンシーと、Atlasというテクノロジー会社とDrive performance という最初はアドネットワークの3社を統合した全く新しいマーケティングコミュニケーション会社の構成だった。MSに解体されてしまった格好になったのは残念だが、アドネットワークは、進化していわば広告配信先クッキーデータベースとも言えるので、エージェンシーとテクノロジー会社とDMPを統合するモデルで実に斬新だった。アドエージ誌によるとグロスインカムもADKより上位にあった。

aQuantive p.jpg

 テクノロジーは開発力を常に維持することが決め手でもあり、経営統合で1社を囲い込むのが得策かどうか分からない。(エージェンシーとしてバリューチェーンが成立するか難しいかもしれないが)しかし、有力なテクノロジーをニュートラルに使える立場でありながら、自社でも開発力を持ち、なおかつオーディエンスデータも保持できれば、かなりの競争力を獲得できるようにも思う。

 このような機能再編は、広告会社だけが目指すわけではない。むしろ文化的にテクノロジーに明るい、または経営者の判断と実行が早い「広告会社以外のプレイヤー」から主導的にこうした再編にチャレンジしてくるプレイヤーが出てくるだろう。
 そうなると、広告会社は買収されるか、人材の草刈り場になる(使える人であればだが)可能性もある。

 ベムは広告主企業のためのテクノロジー導入コンサルをしているが、そういうニーズがあるのは、テクノロジーベンダーに企業側の課題をしっかり理解し、成果を出す運用方法を的確に明示する力がないからだ。それも無理もない。クライアント自身が自分の課題を理解していない場合が多い。そもそもコンサルとはクライアントの本当の課題は何かを指摘することができないと意味がないのだが・・・。

 ともあれ、そうしたコンサル機能とテクノロジーと価値のあるデータを供給できるようになると、次世代のマーケティングコミュニケーションにおけるサービス提供のできるプレイヤーとなるだろう。しかし、現状、誰もこうした機能を収斂させることは実現していない、というか、まだ誰もトライしていない。

 次世代のマーケティングサービス産業のための再編を主導するのは誰か。興味深いところだ。私ももちろん参画しますよ。!(^^)!

 その1、その2では、広告会社の営業のフロントラインに専門知見を取り戻し、全体がプロ集団化した専門性と機動力ある企業群に再編すべし・・と書いた。
 
 しかし、この「営業という存在がいて、プランニングスタッフがいて、実行部隊が社内外にいて」という構成は、広告主ごとに「すり合わせ」して「人の手」によるサービスをするという従来のビジネスモデルに準拠した基本構成に過ぎない。

 というのも、これはほとんどアドテクノロジーなどがない時代のモデルだからだ。


テクノロジーがマーケティング活動のど真ん中に配置される時代が来ると、「人手」によるサービスが主役であった故に存在した「営業」という存在意味そのものが問われる。

 まず、導入時の「すり合わせ」には、非常に高度なコンサル機能が求められ、運用が開始されてからのPDCAはオペレータがすり合わせるので、ただの「営業」が来ても意味がない。コミュニケーションプランナーはもちろん必要だが、これも従来型の「広告」のプランナーではない。

「実行」はアドテクノロジーのシステム管理画面上でオペレーションされ、オペレータが日々クライアントと情報共有する。週に2~3回訪問してきて「すり合わせる」従来型営業の居場所はない。

「広告」は従来、実際にほとんど「人手」によって実行されてきた。広告原稿素材は版下や凸版やフィルム、ビデオ素材など物理的なもので入稿されていて、それを「作る人」と「運ぶ人」が必要だった。有限な「枠」ものを取引するため、媒体社との交渉力が必要で、そこには扱い量と人間関係が機能する。「人」が介在することで「枠」が取引され、そこに「物(ぶつ)」の広告素材のやり取りがあっての生態系が存在した。昔はCMプロダクションの稼ぎどころはプリント代だったし、新聞原稿も製版屋さんを保護するために、同じ5段でも新聞社によって微妙にサイズが違って流用できなかった。(これを知っている人も少なくなった。)
 
 ほとんどの業界では、こういう状況は当の昔に卒業しており、どういうわけかメディア産業と広告業界だけが、昔ながらの「業態特性」を引きずっている。

アドテクノロジーが主役の時代になると、

マーケティング活動は基本、「データ収集集積」⇒「データ分析」⇒「キャンペーン管理」⇒実行」⇒「リザルトデータ集積」という設計になり、それぞれのアドテクノロジーが担う。もちろんPDCAサイクルなのだが、欧米のアドテクノロジーはいずれも自動最適化や自動実行を目指している。自動とはいえオペレータは確実に必要で、逆にオペレーション経験から様々なナレッジが生まれるだろう。


アドテクノロジープロセス.jpg

 そもそも「枠」ものというメディアを売る側の論理で出来た「出来合い」の広告メニューのなかから選んで買うという「すり合わせ」ではなく、データをもとに自動化されていく最適化がなされる。仕組みを構築するまでの導入コンサルは、非常に高度な知見を要するが、日々の最適化はオペレーション側で行われる。オペレーションサイドから出てきた新たな課題発見をさらにソリューションしていくので、オペレータとコンサルの連動性が重要になる。

 ここでは高度なコンサルタントとスキルの高いオペレータと、コミュニケーションプランナーがいればよい。(もちろんこの3職種もそれぞれのスペシャルティに分化するだろう)特にオペレーション機能が広告主企業内に取り込まれると、従来の広告会社の「営業」職の機能価値は著しく低くなる。というかはっきり言って「要らない」。
 
早目に退職して逃げ切れるのは私の世代までか・・・。
  
 「どうする!?広告会社の営業マン」 ~生き残るための選択肢~

 という本書こうかな。

 DAS(Diversified Agency Services)というワードが聞こえてきてから、もう6~7年経つのだろうか。Diversifiedとは「多様な」とか「多角的な」とかという意味で、いわゆるDAS領域での売上シェアが高くなるということが、WPPにしろ、オムニコムにしろ、メガエージェンシーグループが言っていたのを記憶している。で、そのDAS領域とは、CRM系とか戦略PR系、またはspecialty communication とか呼ばれるヘルスケアとかの専門分野だったりするのだが、こういう分野が昔はなかった訳ではない。しかし専門性の高いそれぞれの領域はより専門性に特化することで競争力をもつということになってきたため、改めてDASという概念が出てきたように思う。

 前回のエントリーでの話の繰り返しだが、専門性とは、営業のフロントラインからして専門家ということだ。スタッフだけ専門家ではないのだ。

 昔の代理店の営業マンは、売りに行くメディアについてはいちおう専門家だった。私が82年に入った当時のアサツーなどはむしろSP代理店に近かったので、私も紙を指でつまんで「これは90キロ」とか、印刷会社の営業並みの知識があったし、メディア部のスタッフは媒体社との交渉ごとをするのが仕事ではあるが、媒体そのものの知識やプランニングに関する知見は営業もほぼ同等に持っていた。というかむしろ営業の方がほぼすべてのメディアに精通している分、プランニング能力があった。

ところが、ここ20年くらいでのマーケティングコミュニケーションに関わるサービスの多様化は、代理店の営業マンの素人化(知見の希釈化)を相当促進したようだ。クライアントに対してフロントに立つ営業マンが、なんでもかんでもスタッフに聞かないと分からないとか、プロデューサーとしての仕切りができないとか、アカウントプランナーとしてのプランの方向づけや、「決め込むこと」ができないとか聞くと、ずいぶん情けなくなったものだと思う。もちろん自分がやっていたころのビジネスが大してハイエンドなものでなかったかもしれないが、マスメディアのプランニングにしても、そのメソッドにさえ熟達してしまえば、営業にでも当然出来る。そもそも欧米のメディアエージェンシーなどは、そんなに高いスキル(よって高所得)ということにはなっていない。ちゃんと勉強していないだけだ。

いつから代理店のフロントは、スタッフに丸投げするようになったのだろうか。もちろんそうでない優秀な営業マンもたくさんいるが、実は丸投げの方が効率がいいという経営判断が右肩上がりのころにあったのだと思う。御用聞きしてくれば、あとは専門スタッフにやらせる方が大きな仕事が効率的に回るという時期もあっただろう。また営業の仕事のうち企画や実行の実務以外のところで、もろもろの仕事(役割)があったし、またそれが相当増えたのだろうと思う。

しかし、時代は広告会社のフロントに、プランニングとエグゼキューションにおけるプロ(専門家)の知見を求めるようになった。広告主もやらなければいけないことがものすごく増えて、トータルに(ワンストップに)アウトソースしたい一方で、それぞれの専門性の高いスペシャリストが常にインターフェイスしてくれて、フロントで解決してくれる方がありがたいのだ。それだけ現代はスピードが要求されている。まあPDCAサイクルが実に高周波になっているのだから、「スタッフに聞いてきます」といってその場で解決できない営業マンはいらないということにはなる。

フロントを少なくしてバックヤードを厚くする方が効率的な時代も、それはあった。ワンストップはクライアントも便利だった。しかしそれはクライアントに知見が乏しい場合だ。また、ペイドメディアだけならともかく、企業のマーケティングメディアがトリプルメディア化するなかでは、オウンドメディアとアーンドメディアでは広告主が素人ではなく、広告会社の方が素人になった。


よって代理店は根本的にその機能を再編しないといけない。そして、そこには専門性と機動力がきわめて重要になった。


が、日本の広告会社くらい高齢者が経営しているとこころはない。広告主企業の経営トップがどんどん若返りしているのに、広告会社、媒体社の経営トップはおそろしく高齢だ。昔の成功体験からマインドを切り替えることがそもそも無理な世代とも言える。

昔の世代は「企業は大きい方がいい」と思っている。(電通や博報堂くらいのスケールがればそのケーパビリティは確かに武器だが)また、「360度だなんだ」と1社で何でもできることがいいとも思っている。しかしこの時代「何でも出来る」なんてのは大うそで、こんなことを標榜するのは「何ひとつ完全にプロの仕事は出来ません」と言っているようなものだ。


すでに問題はどういう専門性に区分して、それぞれの組織構造や人材育成をどう組み立てるかであって、フロントからスタッフまで全体がプロ集団化するエッジの効いた専門会社(当然、給与形態もキャリアステージの考え方も違う)を持ち株が統合するスタイルになるのは必然だろう。
必要なのはマーケティングに関わる様々なサービスを、それぞれ専門性の高いプロ集団で販売する、販売力の水平拡大であり、もう一方でのビジネスモデルの垂直拡大である。広告会社が成長戦略を描くのであれば、こう考える以外にはない。

ビジネスモデルの垂直拡大とは、従来のドメインからシナジーの効く領域への事業モデル開発であり、いわば広告代理業からの脱却である。


おそらく、広告代理業のモデルは衰退を余儀なくされる。Googleのアドワーズが誰でもオンラインで買えるように、限られた「枠」を大きな企業広告主に売るというビジネスはシュリンクする。大きな企業広告主も広告枠を買うことで行うマーケティング施策は減っていくだろう。また大きな企業でも社内でオンラインで入札型の広告を買うだろう。
従来からの「枠もの」は売る側の論理でできている。買う側の論理で「人」を選んで買う広告はすべての広告主、ブランド、キャンペーンに究極にカスタマイズされるもので「枠」の概念では対応できない。
売り買いの仕組みが、代理店の営業マンの「手売り」から広告主企業の「入札」にかなりシフトするだろう。
それはなぜか・・・。

「広告」にとって「広告代理店」がもっている「メディア情報」が優位だった時代(多少は今もそうかもしれないが)は、そろそろ終焉を迎えるだろう。「広告」にとって重要なのは「顧客情報」になる。つまりCRMの延長線上に新規顧客を獲得するための「広告」があるということだ。顧客化したユーザー、情報をプルしたユーザー、そうした顕在化したユーザーを分析することよって、まだ認知していない見込み顧客を選別して広告配信対象とするのが当たり前になるだろう。
となると、この世界には「広告会社」以外のスペシャリストがごちゃまんといる。CRMをやってきたテクノロジーベンダーはじめ、様々なプレイヤーだ。IBMやオラクルも広告会社にはコンペティティブな存在になるだろう。


そして、広告会社にとって競合してくるプレイヤーが増えるのは、これだけではない。前回エントリーで書いたように、マーケティングコミュニケーションのために開発すべきものは、「読み物」や「映像」のようなコンテンツばかりではない。Webサービス開発やリアルなビジネス開発も含まれる。
ただでさえ、「広告クリエイティブ」しかやってきていないので、「情報クリエイティブ」や「ブランデッド・コンテンツ」開発が簡単でないのに、「ユーザーサービス開発」や「事業開発」までが領域となると、これは「広告会社」がマーケティングコミュニケーション開発のメインな担い手ではなくなる。

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こうした外部環境認識に立って、既存事業の再編や新たな事業モデル開発ができるかどうかが今の広告会社の経営トップの責務である。

この人たちには、バブル期の成功体験はむしろない方がいい。

 「時代が要請する新しいマーケティングコミュニケーションをどういうプロセスで開発するか」デジタルマーケティング時代に、旧態の広告会社が立ち至るテーマである。

 そもそも広告媒体枠を買ってもらうために行ってきた「広告クリエイティブ」なので、広告会社にとっては広告媒体枠(特にテレビの扱い)販売に繋がらない「コミュニケーション開発」に注力する道理はあまりない。
 ところが、時代は、広告(特にペイドメディア枠によるマーケティング活動)だけでは消費者主導のコミュニケ―ションに対応できない状況を生んでしまった。そうなると、15秒のCMや15段の新聞広告といった、決められた「広告フォーマット」の中をクリエイティブする作業(私はこれを「広告クリエイティブ」と呼んでいる。)だけでは立ち行かなくなった。広告クリエイティブだけでなく、戦略的PRアプローチの「情報クリエイティブ」や「ブランデッドコンテンツ」またはマーケティングコミュニケーションの一環としての「ユーザーサービス開発」が必要になってきた。

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 戦略的PRのひとつのメソッドである「情報クリエイティブ」には、ファクトマーケティングをはじめ、アーンドメディアをソーシャルメディアだけでなく、既存メディアの情報開発力と情報発信力をソーシャルによる拡散力をテコに、消費者の「自分事化」の促進を仕掛けるコミュニケーション開発の発想が必要である。これにはそもそもPR会社がもつスキルをデジタル&ソーシャル対応に変革するところに新たなスキルが開発されるものだろう。

 また、広告フォーマットを離れて、コミュニケーションコンテンツを開発するブランデッドコンテンツ開発などでは、単に映像開発だけでなくゲーミフィケーションやARG発想が必要だろう。もちろんソーシャルメディアフレンドリーなコンテンツづくりだ。ここにはCM制作者の発想だけでなく、映画やテレビ制作、ゲーム開発者ほかの様々なコンテンツクリエーターやハイエンドなクリエイティブでないアマチュアの手による新発想を取り入れる必要がある。
 さらに、企業のマーケティングコミュニケーションにとって、開発すべきものは読みものや映像コンテンツだけでなく、Webサービスの開発、さらにビジネス開発の領域にまでに至っている。例えば「Nike Fuelband」はサービスであり、事業であるこの施策をNYのデジタルエージェンシーであるR/GAをパートナーに開発したところが注目すべき点と言える。

 こうなると、広告会社にある知見やコミュニケーション開発力は、それだけでは時代への対応力がなくなっている。優秀なクリエーターは今、おそらくクリエイティブ力をサービス開発や事業開発に向けているだろう。それができない、またはそうしたオファーが来ないクリエーターやプロデューサーしかいない広告会社は今後生き残れるかどうかでは極めて危険な状況と言っていいだろう。とうのも、新しい知見を得るには、そうした新しい仕事をゲットしなければならないからで、新しい仕事が来ない会社には、スキルが育つ可能性がないのだ。
 広告主にとっても、デジタルマーケティングをはじめとして、次世代型の仕事は、「どこに頼むか」ではなく、「誰に頼むか」になって久しい。
 
 従来、日本の広告会社、特に総合代理店を称する比較的大きな規模の広告会社はワンストップで様々な仕事をこなすことに優位性を持っていた。欧米はアバブ・ザ・ライン、ビロウ・ザ・ラインに基本担い手が分かれていたが、日本の総合代理店はブランディングコミュニケーションも販促イベントもすべてこなすところが「売り」でもあった。
 しかし、時代はあまりにもマーケティングに専門性の必要な新たな課題を突き付けてきた。営業のフロントがいて、後ろに専門スタッフがいるという体制で、いかに従来のワンストップを維持してきたとしても、そもそも社内に知見のない領域が急激に必要性を持ち始めたため、知見育成の時間がない。それもオウンドメディア領域やソーシャルメディア領域は実践する広告主企業の方がはるかに知見を得てしまっているという広告代理店にとって実に不都合な状況になってしまった訳だ。

 特に営業のフロントラインのデジタルやソーシャル対応力は目を覆いたくなるような状況で、いくらスタッフがデジタルに強いと主張してみたところで、営業に知見がないところに仕事がくる訳もなく、仕事が来ないのでいくら専門家がいるといってもスタッフはどんどんスポイルされていく。特にこの早いスピードで進んでいくデジタルマーケティングの世界で、半年も最先端の仕事に関わっていないとなると、すでに「使えるスタッフ」ではない。
 
 ここに至って改革が必要な広告会社の経営者には、大きな経営判断が求められている。もうぎりぎりのところまで来ていると言える。どうしたらよいのか・・・。

 その2につづく・・・。 

あまり詳細に書いてしまうとコンサルビジネスにならないような・・・。(笑)

「デジタルマーケティングとアドテクノロジー」というタイトルで先日翔泳社MarkeZineのカンファレンスで講演をした。よく思うのは、最近のこの「デジタルマーケティング」というワードなんだが、・・・ということはデジタルでないアナログなマーケティングがあるということなんだろうが、マーケティングにデジタルもアナログもないような気もするが・・・。

代理店にいて、16年前に新会社を起案する時、社名にデジタルをつけた。扱うのがまさにデジタル広告だったからだ。その後、レップからエージェンシーサイドで新会社をつくる時は、インタラクティブを社名にした。その方が本質だと思ったからだ。インタラクティブとは、「インター・アクティブ」つまり「双方向性」ではなくて、「双作用性」のことだ。「双作用性」はもちろんほとんどがデジタルで実現しているが、TVはデジタルでもまだ「双作用性」ではない。そしてアナログでも双作用性は実現できる。

 僕にとって、「インタラクティブ」なキャンペーンが出来たのは、80年代後半で、ある飲料の商品開発及びそのローンチングキャンペーンでだ。まず瓶容器だったその飲料のラベルに電話番号を刷り込んで、テレホンサービスを実施した。女子小中高生向けブランドだったので、ソフトは「占い」やら「おまじない」やらだが、24時間のうち午後8時~9時だけは電話をかけてきた方が声を吹き込むことが出来るようにしておいた。その声、つまりユーザーが自ら話す身の回りの話を選んで、ラジオCM素材として「三宅裕司のヤングパラダイス」で流した。90秒のラジオCM素材は毎日違うものをつくるので、自転車操業で制作しなければいけなかったが、毎週有楽町のニッポン放送に立ち会いに行くのは楽しかった。CMのナレーションは当時「タッチ」の声優だった三ツ矢雄二さんで、「今日はどこどこの誰から・・」とユーザーの声が流れると、テレホンサービスの電話回線はほとんどパンク状態。都内のコンビニでは週販で1位になる店も出た。
 当時はまだ7割以上ダイヤル電話の時代。でもキャンペーンは「インタラクティブ」だった。このキャンペーンが終わったあと、電話設備会社の人とダイヤルでも自動音声応答装置をつくろうとした。ダイヤルを廻すと、番号によって独自の周波数が出る。オシロスコープにつなぐと測定できるこの周波数の波のグラフを積分して面積を出して数値化する。社会に出て始めて高校の数学が役に立った。
 余談だが、今はどうか知らないが当時、統計は数3で、文科系を目指すとほとんどの高校生が統計をやらないままになる。ビッグデータの時代だが、日本には統計数学の専門学科のある大学はひとつもないそうだ。(韓国には32あるとのこと)
 その後プッシュホン時代になって、本格的に電話による自動音声応答装置をキャンペーンツールにする際に、紹介されたのがハイパーネットだったのも何かの縁だったか。
 とはいえ、学生時代のバンド仲間との縁で、僕はインターネットを広告ビジネスにすることになる。伊藤穣一くんとの出会いも、学生の時からの親友である厚川欣也氏がデジタルガレージの創業メンバーだったからだ。
 若い人たちには、会社の仕事での人脈だけでなく広く個人的なネットワークを広げておくことを薦める。
 
 僕は大学時代にフォートランを使って多変量解析で言語と言語の距離と方向をプロットするということをやっていた。広告代理店に入社すると、その部署で当時「ソード」がクライアントだった。ソードの漢字PIPSを使ってテレビスポットの進行表を局別からエリア別スケジュール表にしたりしていた。マックはDTM用だったが、98は使わず、DOS/Vから入って、スライドショー機能のあるHarvard Graphicsというプレゼンソフトを使っていた。またパソコン通信をやらずにいきなりインターネットユーザーになった。始めたころはまだブラウザソフトがなく、ゴーファーやニューズグループというソフトを使っていた。僕の世代はおそらくネットの第一世代だ。インターネットをビジネスにした最初のかつ最も上の世代である。その意味では、本格的なネット世代への橋渡し役でもあり、広告業界にあっては、マス広告、マスマーケティングを徹底して15年やり、インターネット広告を立ち上がりから15年やってきた稀な経歴を生かして、次世代広告人の育成をライフワークとしたい。

 今、出来れば現在ネット専業代理店で、インターネットに閉じたマーケティングをやっている若い広告人に、ブランディングコミュニケーション開発の知見やマス広告の仕組みやハンドリングをじっくり教えておきたい。川上で行われている「メディア戦略」や「表現戦略」「コミュニケーションコンセプト」はどう組み立てられるのか、CMクリエイティブはどうやって開発されるのか、またテレビスポットやマス広告のメディアプランニングはどう行われているかなどをインプットしておきたい。そういうことを理解し、出来れば実践をこなした上でデジタルマーケティングの担い手になることを薦めたい。ECやオンラインマーケティングもネットに閉じている訳ではない。ネットにしか接触していない消費者はいない。だからネットのマーケティングやコミュニケ―ションだけ分かってもほとんど意味をなさない。

 これからは、アトリビューションがキーワードになるだろう。アトリビューションは特にオンラインでコンバージョンパスが明確になる領域から始まるだろうが、それだけで終わるはずもない。当然マス広告やPR活動などを含めたトータルアトリビューション、(クロスチャネル評価)に行きつく。ネット広告という効果・効率をCPA評価で義務づけられてきたネット専業代理店のみなさんは、ラストクリックでだけのCPAが本当の指標でないことは十分理解しているはずである。そして、本当のROIを測定評価し最適化することを実践してみたいはずだと思う。その素地をつくるためにも、マス領域で行われている広告やPRの基礎知識(特に仕組み、取引の仕方や料金感覚)を持っていないと、シングルソースのサンプル評価でのROI分析設計も、重回帰分析をかけてモデリングする時の説明変数を理解することもままならないだろう。

 ある大手広告会社の元経営者がベムを称して、「突然変異」と呼んだが、新種ができる時は最初にミュータントが生まれないといけない。次世代の新種の広告人のために、僭越ながら自分に課されたと勝手に思っているお役目を果たしていきたいと思う。