2015年 広告マーケティング業界7つの予測

2010年から年初恒例の広告業界予測も今年で6回目・・・。だんだん文章量も多くなり今回は7000字近い。「広告ビジネス次の10年」の書評が昨年電通報で2番目に多く読まれたとのこと。本には書いてない次の10年のエッセンスも織り込みました。長文で申し訳ないですが、お付き合いください。


その1) データプロバイダーによるエージェンシー設立(買収)が始まる年

データプロバイダーとは、巨大流通企業、モバイルキャリア、EC企業、ポイントカード事業者などを中心とするビッグデータ保有企業のことである。彼らはデータの直販を目指す。

しかしデータはマーケティングのコメではあるが、そのままでは喰えない。コメを炊いて、炒飯なりリゾットにして付加価値をつけて売ることができなければマーケティング産業にはならないし、そもそも儲かる事業にはならない。
データをマーケティング的に価値づけするという作業は、商品開発やコミュニケーション開発やプロモーションプラン、メディアプランなど、つまりは広告会社がやってきたことだ。これをまさに「データドリブン」に行うことを標榜するマーケティング会社をデータプロバイダーが考えるのは自然な流れだろう。

「システム会社によるエージェンシー買収」ということであれば米国ですでに起こっている。というか、その次の展開を見せている。Sapientは、もともとはソフトウェア開発会社でかつデータプロバイダーとも言えるが、ここがエージェンシーであるNitroを買収し、SapientNitro社ほか2社の事業体でマーケティング、オムニチャネル、コマース、コンサルティングの領域で企業のデジタル対応を支援している。そして、これをまたピュブリシスが買収しようとしている。

 SapientはNitroの買収の前に、PGIというBelow the Lineの会社(おそらくWeb屋)を買収しており、そこからマーケティングエージェンシーシフトが始まる。NitroというAbove the Lineのエージェンシーを買った時は「リバース・ディール(逆ディール)」と言われた。

http://adage.com/article/agency-news/advertising-agency-sapient-buys-digital-shop-nitro/137361/

IT屋がWebの会社を買収し、エージェンシーを買収し、米国に3000人、インドに8400人もの社員がいるデジタルマーケティング会社となって、ピュブリシスが4000億円近い額で買収する。

 また巨大なデータ保有者であるAT&Tやベライゾンは、マーケティング会社を次々と設立しており、こちらもさらに大きなエージェンシーを買収、吸収してもおかしくない。(ただ通信会社によるデータマーケティングはいったん事業モデルの再設定を迫られているようだ)。

http://www.businessinsider.com/att-is-ending-its-adworks-mobile-experiment-and-laying-off-staff-2013-10

日本の場合も、データプロバイダーの事業体規模が大きく、彼らが広告会社を買収してくる力は十分過ぎるほどある。

 いずれにしても、広告会社のマーケティング「施策」を企画・実施する能力は、あらためて評価されるようになるだろう。データ分析は分析しただけでは価値を生むものではない。データ分析を「施策」化して、成果を上げることでしかない。企画力、エグゼキューション力を買われる広告会社が出てくるだろうが、彼らが本当にデータを活かした施策を企画実行出来るかは、そう簡単ではない。新しい人材と企業文化を生む強力な主導力と知見が必要だ


その2) オンラインビデオマーケティングの本格化と日本版マルチチャンネルネットワークが登場する年


http://www.ibtimes.com/why-disney-dropped-nearly-1-billion-maker-studios-youtube-channel-1572752


 マルチチャンネルネットワークとは米国ではディズニーに買収されたMakersStudioのように、YouTuberを束ねるというだけでなく、その先の視聴者を囲い込んでチャンネルを形成している事業体のことである。日本ではYouTuberをマネージメントしているというところまでに留まっており、視聴者をチャンネルで束ねるという思考がない。また入口としてYouTubeは必須ではあるものの、自社による動画配信テクノロジーとデータマーケティング装置も保有して高い収益性も獲得しようとしている。
 (*オプトさんがMCNについて書いているが、ちょっと踏み込みが浅い。彼らが視聴者を保有するテクノロジー企業だという認識にまで至っていない。)
http://www.opt.ne.jp/column/journal/detail/id=2596


 ここには、1本で何百万再生を目指すという考え方はあまりない。それはあくまで従来のCM発想を脱しきれていない。何万という制作者による何十万という動画が何千万という視聴者によって何十億もの再生回数をもたらす。また制作者はあくまで自分でつくりたいものをつくる。CMを安くつくらせるという発想ではなく、つくりたい動画を自由なセンスでつくり、そこに視聴者が集まり、それをスポンサードする企業が出てくれば良いのである。
 
 こうしたコンテンツに集まる視聴者を獲得するというのは、ある意味テレビ局と同じモデルと言えなくもない。ABCを所有するディズニーが買収したように、日本版が出来てくれば、テレビ局が関心を持つということもあるだろう。プロがつくるハイエンドなCMがなくなるということはないが、素人がつくる中途半端なCMが乱立するということもない。動画コンテンツをつくる者は自由につくりたいものをつくるから視聴者を集めることが出来るのだ。


 

その3) SIer主導の本格的プライベートDMPと「シナリオ設計」人材開発が始まる年

 今、日本でDMPと呼ばれているものは、ほぼDSPの機能拡張版である。つまりDMPによって最適化されるのは、DSPによるディスプレイ広告配信にとどまる。DMPによる分析の負荷はかなりのものだが、その成果がDSPによる配信だけではもったいない。
マスマーケティング展開する企業にとって、まだまだネット広告は一桁%であろうし、入札型のディスプレイ広告はそのまた一部でしかない。

 DMPは、2つの方向に展開する。ひとつは、3rdパーティデータを取り込んでの潜在層セグメントの方向。1stパーティデータ分析だけでの限界をマスマーケターがどう打破するかがテーマ。
そしてもうひとつは基幹システム系に繋がる骨太のDMPの方向である。特にSIer主導でCRMシステムとの繋ぎ込みと分析基盤構築が本格化するだろう。セールスフォース、アドビ、オラクル、IBMなどとそれらのツールをもとに一部開発を伴う分析基盤構築をSIerが行うモデルが増える。
 マーケティングシステムをスクラッチでつくることは今やナンセンスだ。かと言って、単にツール導入だけで済む話でもない。ツールと基幹のつなぎ込みをデータサイエンティスト人材の投入も含めて、SIerが基幹システムからマーケティング領域への進出のために行ってくる。

 ただ、彼らには「マーケティング施策」を導くための「シナリオ設計」を果たすまでは難しいと思われる。いくら統計や数学に強くても、施策の企画実施の経験のない者に簡単に「シナリオ設計」はイメージ出来ないだろう。

 すでにこういったことを理解したSIerが人材をどう獲得して対応するのかが見ものである。

 今年はこうした「データからシナリオ設計ができる人材」育成をめぐる動きが本格化するだろう。データドリブンとコンテンツドリブンを繋ぎ込むスキルが明確になり、こうしたスキルセットをもって機能することを標榜する会社が登場するだろう。

 また事業主企業内でも、DMPによるデータドリブンマーケティング組織のあり方について、かなり明確に定義づけられるようになってくるだろう。
 事業部、ブランドマネージャーという縦のラインに対して、ブランド横断的なデータマーケティング組織という位置づけである。ブランドマネージャーは商品視点だが、ブランド横断データマーケターはユーザー視点である。
 
 デジタル部門を設置する企業は多くなったが、ここでもデータ分析とマーケティングコミュニケーション開発を繋ぐ「シナリオ設計」=反応する文脈の設定を目的とするということが明確になってくるだろう。
 デジタルマーケティングセクションは、専門家でないと難しいし、面倒くさいデジタル
施策だけを投げられてくる傾向がある。ブランドコミュニケーションの本筋は相変わらずAE代理店が担当するだろうが、(それだけ大手代理店の「守り」が堅い)デジタル施策とそれによって得られるデータがブランドコミュニケーションの方向を揺り動かす事例が出てくるだろう。

その4) オウンドメディア戦略が変質する年

企業が自社Webサイトをオウンドメディアとする従来型の展開も少しばかり変化を起こすだろう。デバイスのスマホシフトがどんどん進むと、自社ドメインのサイトへの訪問を促すかたちだけでは十分な効果を獲得しづらくなる。

自社で情報サイトをつくり、それを縮図としてサイト訪問者を消費者、生活者として拡大推量してマーケティングすることにはすでに無理がある。自社サイト訪問を前提にしたB to Cのデジタルマーケティングは、新たな展開を見せることになるだろう。それと同時にDMPも従来の1stパーティデータをベースにするだけでなく、サイト訪問しないユーザーをどうセグメントしてターゲティングするかの時代になると思われる。

 またオウンドメディア戦略にとって動画コンテンツをどう扱うかは大きなテーマとなり、その意味でも自社サイト内展開の限界が露呈するだろう。今年1年ではまだ具体的な動きにまで行かないだろうが、マルチチャンネルネットワークを大手広告主がスポンサードしてくるトレンドの原点は、こうした環境に起因するだろう。

 

その5) 3rdパーティデータとしてのTV視聴データの流通する年

ベムは常日頃、マスマーケターにとって重要な3rdパーティデータとは、ソーシャルメディアデータ、購買行動データ、TV視聴データの3つであると言っている。そのなかでもまだまだ全数データとしては取得しにくいTV視聴データがマーケティングデータとして活用され始める年となるだろう。

VRの世帯視聴率は取引き単位ではあっても、マーケティングデータとしてはどうだろうか・・・。デジタルマーケティングを「デジタルデータによるファインディングスをもってマス・リアスを含むすべてを最適化する試み」と定義する時、最も巨額なテレビ広告の最適化を図る取り組みは、広告マーケティングのど真ん中にいる人たちにデジタルマーケティングの意味を再認識させるものになるはずである。

テレビ広告に携わる者こそ「デジタルに刮目せよ。」ということだ。

 その3にも書いたように、DMPによるマーケティング活動の最適化がDSPによる入札型ディスプレイ広告だけではつまらない。テレビ広告を最適化出来ればその改善効果も大手広告主なら何億、何十億にもなるだろう。
 
 従来、視聴質とは何かについてベムはオーディエンスの違いと考えていたが、オーディエンスの違いだけでなく、視聴態度の違いが大きいことが分かってきた。つまり専念の度合い、集中力の度合いが番組によって全然違う。また、番組の定番客を見極めることも必要だろう。こうした分析も可能なデータも取得されている。

 また、テレビとオンラインのアロケーションモデル構築も多くの大手広告主でチャレンジされることだろう。事前に予算化しないと始まらないのは分かるが、その先はやはりリアルタイムのKPI把握による、運用による最適化しかない。それだけ実際の変数は多く複雑で簡単にモデル化しようと思わないほうがいい。

 ベム曰く、

「事前にベストなアロケーションが決まっている訳ではない。運用でベストにするのだ。」

 

その6)キャンペーン型(送り手のタイミング)から通期型(受け手である消費者のタイミング)へのマーケティングコストのシフト  ~ダッシュボードによる即応型運用広告の原型が出現する年~
 
 マスマーケティング企業にも、キャンペーンという「送り手のタイミングでのコミュニケーション」から消費者の行動データから兆しを発見し、「個々のユーザーのタイミングに合わせたコミュニケーション」にマーケティングコストのシフトが始まる年が今年ではないかと思う。
 
 そのためには、マーケティング活動の成果として数値化できるKPIをリアルタイムでトラックする必要があり、一定の閾値を割ったら、すぐに「打ち手」を作動する仕組みが要る。通期で常時自社ブランドの閾値を維持する手立てを打っていける方が、キャンペーンだけで毎回減衰してしまうよりも、マーケティングコストはよほど効率的になるだろう。

0001.jpg  某大手グローバル広告主では壁一面のマルチスクリーンで、全国のメディア、SNSでの反応を「リアルタイム」で「全スタッフ」共有を図る。モニターの前には常に数名のブロガー、データサイエンティスト、ディレクターがチームで張り付いて逐次施策を出している。マーケティングダッシュボードの「氷山の一角」だ。


マスマーケターにとっては、マーケティングダッシュボードは競合他社を含むTV出稿データなども取り込み、すぐに「打ち手」を実施できるものでなければならない。競合のキャンペーンに対抗するために2~3ヶ月かけていたら、その間に失うコミュニケーション資産を取り返すのにはよりコストがかかる。


 また消費者ごとのベストタイミングを推し量るビッグデータ活用の仕組みづくりの探索は今年のテーマと言ってもいいかもしれない。
 
  ベムもポイントカードによる購買タイミング把握と購買サイクルに合わせた広告配信をプロデュースしてみたが、リーセンシー効果は確認できている。


その7) エージェンシーのプライベートマーケットプレイスと広告配信結果データ格納合戦開始の年
     

 
 米国のインハウストレーディングデスクの動向や、Xaxisの戦略を見ていると、これは大手広告主と大手エージェンシーの綱引きという様相を呈している。
 大手広告主のプログラマティック直取引に対して、プレミアム掲載面囲い込みと配信結果データ格納で対抗する大手エージェンシーという図式だ。エージェンシー側も「アービトラージ」で収益性を高めようと必死だ。一方大手広告主も、エージェンシーに掲載面やオーディエンスデータを囲い込まれたくはない。1stパーティデータを軸にするオーディエンスデータは自分たちの顧客データにニアリーイコールであって、自社保有データとして扱うのは当然で、ここをエージェンシーに依頼するつもりはない。

 一方、中小広告主は自分だけでは大量なデータを取り込めないので、巨大エージェンシーのデータを借りたほうが得策である。エージェンシーはデータ量で圧倒して大手広告主もどんどん取り込みたいのだろう。グローバル企業のような超大手広告主がいない日本では、むしろこちらの環境にある。

 グローバル大手代理店の広告配信結果データの格納とプライベートマーケットプレイスの構築はグループMや電通さんの宣言どおりに着々と進むだろう。ただ蓄積するデータが有効に活用できるかは、これから次第だ。データストレージが安価になったので、とりあえず保存してみるだろうが、それは、今はまだ単に倉庫に入れるという程度の話である。データストレージであってDMPとは言えない。エージェンシーが保有すべきDMP構築はかなり壮大で、企業のプライベートDMPより構築は困難である。メディアオーディエンスデータや有効な3rdパーティデータとのつなぎ込みを果たし、「さあ、あとは御社の1stパーティデータとつなげばすべて可視化できますよ。」と広告主に迫ることが出来るか、そこが課題だ。
メディア側も売ってもらう掲載面の買い切りは喜んでも、オーディエンスデータを簡単には渡さない。

エージェンシーのプライベートマーケットプレイスとデータ格納は金融業界でいうところの「ダークプール」になるのか。(「ブラックボックス」ほど何も見えない訳ではないが、よく見えない「ダークプール」(金融業界では「証券会社などの金融機関が、機関投資家などの注文を匿名で付け合わせて行う取引。証券取引所など公開の市場を通さず、市場での取引価格を参照したり、取引参加者同士が直接、価格や数量などの条件を交渉して価格を決定する」コトバンク参照)
 その方向を見定める年になるだろう。
 
 
 これは今年の予測ではなく、もっと中長期の予想であるが、広告のプログラマティックバイイングは、金融(株式の取引)のように、同じ主体が「買い」も「売り」もするモデルになると思う。「買ったものを売る」というか「融通し合う」という方が正確かもしれないが、企業間のオーディエンスの交換が行われると思う。
 
プレミアムな掲載面をネットワークしようとするプライベートチェンジ。しかしプレミアムが望ましいのは、売る側だけではない。メディアにとってプレミアムな広告主という基準もある。


さて、


総論として言えるのは
「やっとデジタルが企業マーケティングのど真ん中に入り込み出す年」ということだ。

 ・【デジタルだけを最適化するマーケティングの終焉】
・【アドテクプチバブルの終焉】
・【デジタル専門サプライヤーの価値低下とトラディショナル広告マンスキルの再評価】

 を明確にする年になると思われる。

ADVERTISING WEEK ニューヨーク や同ロンドンのように日本でも広告マーケティングの本流が当たり前のようにデジタルを取り込んで議論する新しい場が必要だろう。アド協の理事クラスの宣伝部長たちやテレビ局上層部がこぞって参加するアドバタイジングウィークTOKYOを期待したい。

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