2014年11月アーカイブ

 少し前に「フロー型」から「ストック型」へというフレーズが流行った。これは特にオウンドメディア開発に注力をおくという意味合いが大きかった。キャンペーン型で短期にピークをつくるがすぐに減衰してしまうキャンペーンモデルだけでなく、ベースラインを徐々に上げて、キャンペーンによる効果も実施前の水準にまで落ちることなく蓄積していこうという考え方だ。
 そして、この考え方をもっと進めると、ペイド施策も含め、キャンペーンという企業側(送り手)のタイミングでコミュニケーションするだけではなく、個々の消費者のタイミングでコミュニケーションする通期運用型にマーケティングコストがシフトすることが必然となる。
 従来は個々の消費者の関心が顕在化するタイミングなどは把握しようもないので、主にシーズナリティをベースに、また主な購買機会を演出してキャンペーン期間を設定し、マーケティング予算をほとんどそこで使ってしまうパターンであった。しかし今は様々なデータから個々の消費者の購買の兆しを推し量ることも可能になってきた。DMP活用による個客分析は購買意向のタイミングをキャッチすることも重要な役割になるだろう。

 例えば、ビデオカメラのキャンペーンは従来、卒業式入学式シーズンと秋の運動会シーズであったが、昨今運動会も初夏にやる学校が増えて、キャンペーンチャンスも年一回(3月メイン)になったりしている。この時期は広告需要も最も多いので、入札型広告ひとつとっても広告価格が上昇する時期である。
 そして、そもそもビデオカメラとかムービーカメラといったワードの検索数は1年中ほぼ変わらない。企業マーケターなら自分の商品カテゴリーや自社ブランドの検索数の年間推移を見たことがないという人はいないと思うが、これがほぼ消費者の関心量という需要と解釈していい。となると、マーケティング予算を広告価格の上昇する時期に全部寄せるのではなく、通期型で個々の消費者側の関心のタイミングにカウンターでコミュニケーションすることも織り交ぜたほうがいい。入札型広告も通年運用すれば、広告需要期だけより同じパフォーマンスを半分以下のコストで買い付けることも可能だろう。単純に言えば、2割を通期にシフトさせて、それを半分のコストで運用すれば全体は1割コストダウンできる。(パフォーマンスを落とさずコストコンシャスにするにはそんなに簡単ではないので、高度なコンサルが必要だ。)

 もちろんシーズナリティなどタイミングでの訴求も、関心が顕在化していない消費者に需要を想起させる効果がある訳で、また流通施策(棚を用意する)のためには絶対に必要である。ただ、関心が顕在化していない人への想起を促すことも必要だが、関心が顕在化した人へのナイスタイミング訴求のほうが購買につながりやすいだろう。(もちろん短期的な刈り取り発想だけでなだめで、マーケティングの時間軸を中長期で設定しての最適化発想は大事だ。)
 
 で、もうひとつの通期型運用のメリットは、ダッシュボードで自社ブランドのKPIをリアルタイムで補足しながら即時に手が打てることだ。もし競合ブランドが不意をついてキャンペーンを仕掛けてきたり、思いのほか大量投下してきたりして、対抗策を講じなければならない時、従来マスメディアだけだと少なくても30日程度実施までかかってしまう。その間何も手を打てないと競合ブランドとのマインドシェア競争で後手を踏むことになりかねない。マーケティングダッシュボードを装備して、自社のブランドのKPIの一定の閾値を割ったらすぐに打ち手を発動して、(入札型ネット広告でもそれなりの対抗策になる)奪われるコミュニケーション資産を最小限に食い止めることほうが、結局のところマーケティングコストが少なくて済む。いったんやられてしまってから元に戻すコストは高くつくからだ。

 つまり、一定の閾値を維持すべく、かつ個々の消費者のタイミングに合わせて通年運用する広告活動をキャンペーン型に組み合わせるべきなのである。

 *デジタルインテリジェンスではこうしたコンサルしております。w 

 日本企業にもプロダクトマネージャー制度が根付いて久しい。今やブランドマネージャーがATLもBTLも一貫して管理する(IMCを実践する)のは当たり前となった。事業部がマーケティング投資権限を持つのは自然な流れではある。

 しかし、ここにデータドリブンマーケティングの潮流が一気に押し寄せて、単にブランドごとのマネージメントだけでは立ち行かない状況を生んでいる。ブランドマネージャーは当然だがブランド視点から個客ユーザーを見る。しかし、ブランド視点ではなく個客ユーザー視点で自社他社含めたユーザーのブランド接点を見るマーケターが必要である。
ひとつの企業において複数のブランドマネージャーがそれぞれのブランドに最適化するマーケティングを実行すると、縦割りのサイロ状態になる。そこでは日本市場にはトータルで何億人ものターゲットユーザーがいるということになっている。そこは「名寄せ」が必要なのである。
日本は人口減少社会である。ブランド視点だけでなく、ユーザー視点のマーケティングをすることで、複数ブランド間のクロスセルやLTVの向上、またはライフステージにおけるブランドの受け渡しなどがCRMベースで行わなければならない。
 従来、強力なブランディング力でこういうことは実現できてきたかとは思うが、マーケティングコストを考えると、ブランディング戦略とCRM戦略の併用が効率も効果を良さそうだ。
 CRM戦略と言っても、必ずしも自社の個客IDとして登録してもらうばかりでなく、クッキーベースや有力なインターネットサービスプラットフォームのIDを上手に借りてアノイマスでも見込みユーザーとして管理できる。(どこまでをCRMというかは置いといて・・・)
 
 さて、企業サイドにはブランドマネージャーとしてのマーケターは存在するが、ブランド横断型のマーケターがいない。必要なのにいないとしたら、育成するか外から連れてこないといけない。(DMP構築というのはこうしたマーケター組織と人材育成や獲得のチャンスでもある。)
 従来日本では、事業者側のマーケター人材とエージェンシー側の人材はそもそも文化が違うこともあり、中途でエージェンシーサイドから事業者側に入ってきても、プロパーのマーケターのように社内で力を発揮するようにはなかなかなれない、馴染まないという現実があったかと思う。
 しかし、ブランド横断型マーケティングをデータドリブンで行うには、むしろ社外の知見が必要で、エージェンシー側から事業者サイドに転じて活躍する余地は十二分にあると考える。事業者サイドもこうした人材をエージェンシーにいる人たちに求めるのは自然な流れだと思う。

 ベムもエージェンシーにいる若い人たちに「出来ればブランドサイトに行ってマーケターになれ」と促すことが多い。それは従来ブランドマネージャー型とは違う質の人材がこれから求められるからであり、もうひとつは、データ分析から「シナリオ設計」が出来るようになるためには、「施策」(プロモーションプ、クリエイティブ、メディアバイイング・・・)のプランニングや実行の経験が必要だからだ。

 そもそも、これからのエージェンシーの人間は「エージェンシーの機能を売る」のではなく、「事業者側のマーケターとしての機能を売る」ようにならないといけない。
 
 先行する欧米での、インハウスマーケティングラボやビスポークエージェンシー、ブランドエージェンシーリーダーという流れはこのようなトレンドを反映している。
 
ブランド横断型マーケターとして、事業者側に転じる、また事業者側もそうした人材を採用することが多くなるだろう。その際、通常に企業の人事部では人物を見たり、企業文化に合うかは見れるだろうが、デジタルマーケティングのスキルチェックは難しいだろう。(採用時のデジタルスキルチェックは、弊社のコンサルの一環で行っている。)

ただ既存組織に入れるだけでなく、DMP運用のために「情シス」「宣伝」「広報」「Webサイト担当部署」など人材を結集して新組織やタスクチームをつくるのも有力な手段である。とにかく、事業部以外の横断的組織が「手を結ぶ」、「回路を繋ぐ」という思考が重要である。社内で綱引きしている場合ではなく、力を結集すべき時である。

 データというのは、いわば米の状態のものだ。そのままでは食べられない。米を炊いて、おにぎりにしたり、はたまた高級イタリアン店のリゾットにしてこそ価値がでる。そのためにも価値をつくる人を育てなければならない。ただ、そういう価値をつくる人や仕事への敬意をもつ企業文化が大事になる。

 最近ベムのところには、「データ分析に、分析官を何十人も配置したが、なかなかシナリオ設計ができるところまで分析の価値をあげられない。そういうスキル開発にご協力いただけませんか?」というオファーがよく来る。

 そりゃ、そうだろう。シナリオ設計とは、何らかの施策に結びつけるためのものであって、施策のプランニングや実行の経験のない人にはイメージがつかないのは当然だ。
「データサイエンティスト」というスキルセットについては、まだまだこれから定義されていくだろうが、マーケティングのシナリオ設計という領域は、そうそう簡単に出来るものではない。長い間広告マーケティングの世界に身を置いている側から言うと、そう簡単にデータサイエンティストにシナリオ設計が出来てもらっても困るという思いもない訳ではないが、そういうスキルを開発しないといけないのが私の立場だ。

 ビッグデータなるものは、データの大海原なので、どうやって文脈を発見するかということでは、基本仮説立てをして、捨てていいデータを決めることになる。データは多すぎるので、「データリダクション」をしないと道筋が見えてこないのだ。
 この際、捨てるデータを決めるための仮説設定には、意外とアナログな手法も有効と言える。というかむしろビッグデータと向き合うには、デプスインタビューのような生の消費者と向き合って、インサイトを探るスキルが重要なのだと言える。
 そうしたスキルは伝統的な総合代理店のマーケやストプラと言われる人材が長けているはずなのだが、ちょっと違うのは「ひとつ」に修練させる従来のやり方ではないところだ。

 マスを前提にした表現開発は、いったん発想を出来るだけ拡張する(コピーを100案出してみろみたいな100本、1000本ノックがあって)が、そのあとは、ひとつの表現コンセプトに修練させるのが従来のやり方だ。これはマスクリエイティブが出来るだけ多くの消費者が少しでも反応するようにつくるという「最大公約数型」になるからだ。しかし、今やるべきコミュニケーション開発とは、データからいくつかのターゲットと対のいくつかの文脈を見つける作業となるだろう。ひとつの表現で「出来るだけ多くの人が少しでも反応する」のではなくて、特定の人が「強く反応する」文脈をいくつも抽出するという作業である。

 前述のデータ分析からシナリオ設計するという作業は、従来の広告代理店のストプラ作業とは似て非なるわけだ。
 
 いずれにしても我々が必要なスキルは、今誰も持っていないものと言える。これから開発しなければならないスキルだ。
この時、センスのある分析をする人というのは大事に扱わないといけない。いい仕事とそのスキルをリスペクトしないと目指すべきスキルは育成されないだろう。
 
 コメ農家は、付加価値を最大限に引き上げる料理人の知恵と技術に敬意をもって接して協業しなければならない。

 今回もDIニューヨークからのレポートからブログを更新。

今年の1月アドエイジ誌に、「衛星放送の競合同士であったディレクTVとディッシュTVが共同で合計2000万世帯へのリーチを売りにアドレサブルTV広告を選挙キャンペーン用に販売開始した」と報じられた。
 下記はその記事だ。

http://adage.com/article/media/dish-directv-team-addressable-ad-efforts/291303/

 アドレサブルTV広告とは、近年テレビモニターに必ず添えるセットトップボックスに向けて広告配信する技術のことで、ケーブルテレビや衛星放送を中心にセットトップボックスを契約する世帯別データを、第三者機関のデータと組み合わせて広告配信するサービスである。

Addressableつまり「アドレス出来る広告」ってことね。

CATV網が張り巡らされた米国では従来もTVへのターゲティング配信は行われてきたが、番組ごとの視聴者デモグラ情報をもとに枠を選んだり、州ごとのエリア配信くらいだった。ところが、オンラインビデオ広告のターゲティング配信に圧されたのか、衛星放送の競合会社同士でさえ共同で広告サービスを開発した。
 
 米国では今年2月、NBCを有する米CATV最大手のコムキャストが、第2位タイム・ワーナーケーブル通信会社を4.5兆円(450億ドル)で買収した。さらに続いて米通信市場最大手のAT&Tが衛星テレビ最大手のディレクTVを4.9兆円(485億ドル)で買収するに至った。
 日本でいえば、NTT、ドコモ、KDDI、ソフトバンクなどの通信側と、日テレ、フジ、テレ朝、TBSなどの放送側がチームを組んで、グーグル、フェイスブックらと視聴者層争奪戦を始めるようなものである。

Ranking Cable (569x498).jpg

 図1:米国におけるビデオ視聴者数ランキング
ケーブル、衛星、通信各社の合併でもネットフリックス1社に及んでいない。(データ元:ncta.com/industry-data)

 しかしながら、この日本円で4兆円だの5兆円だのというとてつもない巨額のM&Aで獲得される視聴者数もネットフリックスにさえ及んでいない。ましてやフェースブックは北米での月間アクティブユーザーが2億人を超えている。

 またターゲティング精度が上がれば、上がるほど効率と効果の絶対量を両立することは難しくなる。それゆえ圧倒的なリーチの絶対量が必要なのである。結果競合の衛星放送会社でも手を組むわけだ。

 日本でもCATV網は1社のシェアが高いわけで、全社を囲い込んでの「Addressable」にチャレンジしてみたらどうだろう。それにBS放送なんて「衛星」から一発で全国同じ内容でしかやってないから、かえって前時代的な状態だ。地上波のTVスポット広告は本数でいうと、ナショナルクライアント半数、ローカルクライアント半分、しかもナショナルクライアントも全国一斉発売商品はその半分くらいだ。ということは、BSは地上波の4分の1(通販など基本全国に放送されてよい広告)しか受けられないということになっている。BSの経営が非常に保守的なのは残念だ。
 技術的な問題より、事業者のマインドの問題の方が大きいように思う。各社共同開発でのチャレンジをすべき時期になっている。

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