Your inner ××××? そして、落とし穴マーケティングについて

コミュニケーション・ビジネスについて、サイエンティスト石井 裕さん(マサチューセッツ工科大学メディアラボ教授)の言葉を引用させていただきます。(礼)

あらゆる眠っている記憶、感情、それらを起こすためにあらゆるところから信号を送り込むこと。広告会社が送るメッセージが記憶と共振して、私たちの中に眠っているものがむくむくと起きていく、そして、購買意欲とか幸せにつながっていく。たとえばコミュニケーション・ビジネスとはそういうものだと思います。

なるほどなるほど。最近、コミュニケーションのツボは、「わかること」と「わからない」ことの間にあるな、と考えていたのですが、それってこういうことかと合点がいきました。
そう、わたしたちの脳の中には、いろんな記憶が自分の都合でマッシュアップされた状態で詰まっています。それが、ふとしたキッカケで呼び起こされたとき、頭の回路が起動して、しまいこんでいた「自分が気持ちいいイメージ」を思い出しワクワクしてくる現象が起こるわけです。一種のマイブームのように、そのイメージをしばらく舐めまわす感覚かな。
知っていることと知らないことの間には、すっかり意識の底に隠れてしまった記憶や感情があった、ってことなのですね。ある刺激で、その破片に文脈が与えられて再構成されたとき、脳で火花が散るのでしょう。
前回、わたしがジョージ・クルーニーになってしまったという話しをしましたが、それは、わたしのなかに眠っていたジョージが眠りから覚めて活動しだしたということ。わたしはセルフイメージとして、ジョージ・クルーニーな面を持っていたんですね。勝手ながら。
これが、Your inner ジョージ・クルーニーです。

じつは、前回触れたラブレターとしての広告が成立するのは、こんなケースが成立するときです。「ジョージ・クルーニーのように、渋いけどお茶目なあなたに、この車に乗って欲しいんですお願いっ!」と口説かれちゃったわけです。ただし、現実にわたしの購入行動は起こらないのですが。失礼しました。

Your innerなになにの事例でもう1つ。i-podのビジュアルは、Loganによるものですが、あの色彩と、人物のシルエット、動きは、自分の中のリズム、ビートを深いところから覚醒させる特別な力を感じます。
http://movies.apple.com/movies/us/apple/ipoditunes/2008/ads/apple_ipoditunes_gamma_20080424_r848-9cie.mov
Your inner beat!

こんな、奥深いところの何かが覚醒したような体験をしたとき、ひとは合理的には説明しづらい消費行動を起こすことがあるように思います。その感覚を確保するために。

以前、わたしの同僚たちに「いつもの自分なら買うことはないはずなのに、なぜか買ってしまったもの」を挙げて自己分析してみようというゲームみたいなことをしました。
小型バイク、子どもにはふさわしくないほどの高級机、アンティーク人形、かなりマニアックなアウトドアグッズ、スポーツクラブなどなど。言葉だけ見ると普通に見えるかもしれませんが、当事者のキャラクターと並べると、「なんで君が!?」という理解しがたいギャップがそこにはあります。
自己分析を聞くと、しかしそこには共通項があって、基本的に男性は自分の中の「別の自分」が、あるボタンで覚醒して、その「別の自分」の論理で買うという行動を起こしたということ。その「別の自分」は、他人から「ありえない!」と中傷されても揶揄されても、決して修正されるものではありません。その「消費」によって覚醒した「別の自分」は、当人にとって何よりもいとおしく、かけがいのないものなのでしょう。一方、女性の場合は、身近に自分の理想のモデルがいて、そこに近づきたいという動機が、いつもと違う消費のキッカケになっているようで、やっぱり男と女は違うんだなと、みんな納得したものでした。Your innerアプローチも、男女で少しメカニズムが違うようです。

ファネルという考え方がマーケティングにあり、漏斗(じょうご)のように、認知を大きく広げ、検討してもらい購入に流し込んでいくというプロセス管理に使う概念ですが、ここで触れた「Your inner」アプローチは、不思議なことに最初のキッカケから購入までが、いわゆる「衝動買い」のスピードで起こることが多いように思います。そこで、これを「落とし穴マーケティング」(c)と呼んでみます。
落とし穴は、わかっていても落ちたい気持ちを抑えられない不思議な存在です。人は落ちたがっているという本質があるのかも、と思うくらいです。
実際にある商品で「落とし穴」を仕掛けたところ、確かに落ちて買うという現場を数多く目撃しました。ここでこんなもの売っても買う人はいないよ、という予想を裏切って。
落ちた人たちは、その前後である意味「別人格」になっていたのでしょう。

「Your inner ×××」を覚醒させる落とし穴が作れれば、即効性の高い施策となります。むずかしいハードルだと思いますが、これができると、ある意味でクロスメディアアプローチは不要となります。ピンポイントで刺せば、あとは買うだけだから。

クロスメディアは「なし崩し」で、「落とし穴」はピンポイントで。
これが最近のわたしのセオリーです。

※以前紹介したARGは「なし崩し」にあたります。

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