企業のオウンドメディア戦略は5年ほど前から大きく変質している。以前の自社ドメインへの流入を促す自社コンテンツ構想はほとんど挫折した。「分散化」というキーワードはもう死語になるくらいだが、公式アカウントというソーシャルメディア戦略には対応しつつも、オウンドメディアには企業に「解」がないまま推移している。

 その間に、回線も「ほぼ」だったり、フリーWifiの普及などで、スマホで動画を観る機会(頻度)も量(時間)も圧倒的に増えた。

 動画コンテンツを中心に企業のオウンドメディア戦略の立て直しがテーマになりそうだ。そうなると、ブランデッドコンテンツとしての動画を量産する「装置」をどう獲得するかが課題になるが、それらを、どこを起点に発信していくかも再設定する必要もありそうだ。

 その意味で、YouTubeチャンネルを起点にその登録者数を少なくても100万人規模にする目標があってもいいのではないか。
 「ブランドのメディア化」を果たすための分かりやすい目標なのではないかと思う。

 米国ではYouTubeチャンネル登録者数は「ブランドのメディア化」指標のひとつと捉えて、その規模はミリオンの桁である。

 コカ・コーラ 247万人
 フォード   174万人
 アップル   670万人
 サムスン   247万人
 
 一方、日本では、大手企業では下記の登録者数に留まる。

 コカ・コーラ 3.1万人
 花王     3.3万人
 キリンビール 3.7万人
 ソフトバンク 7.2万人
 
 米国の公式チャンネルは英語圏にグローバルに広がるので、日本語ベースが一桁少ないのは理解できるが、どうも二桁違うのは、日本では各社ともまだYouTubeチャンネルの登録者数に目標設定をしていないようだ。
また、公式チャンネルの動画がほとんどCMものばかりであることから、テレビでは観られないスピンオフだけでなく、ソーシャルに対応したブランデッドエンターテインメントを、ユーザー文脈でも量産できる「装置」をチャンネルに装備すれば、登録者ミリオン獲得も困難ではないのではないだろうか・・・。

 どんな業界でも、スキルの再編を要している。売り物が変わる。顧客が変わることによって、改めてそれらを売るスキルの要件定義が必要となっている。
 
 その上で広告業界にはまた業界ならではの要因もあって、相当難しい局面を迎えつつある。
 
 前回のエントリーを踏まえ、エージェンシーが生き残る(あるいは業態を変える)ために必要なスキルの要件定義について書こうと思う。

 前回エントリーにも書いたように、まずは総合系代理店の場合、プログラマティックバイイングのオペレーションの完全外出しによって、本来あるべき機能の空洞化と、デジタルとトラッドの分離によって、従来から持っていた大事なスキル(クリエイティブ・マスメディアプランニング・SPプランニング・ストプラ)などが急速に陳腐化するリスクを抱えている。電博はグループ会社でオペレーション機能を抱えているので、資本としては空洞化なないものの、本体エージェンシーにおけるスキルがこのままでいい訳ではない。
 また電博以外は特にクリティカルで、競合代理店資本のメディアレップに頼っているのではお話にならない。
 
 そうすると、電博以外で少なからずテレビ扱いがあり、デジタルに弱い総合系は、いくつかの対策が急務である。
 そうした代理店が唯一ネット専業に勝る知見は、マス(特にテレビのプランニングとバイイング)、リアルなSPプランニング、そしてクリエイティブあたりで、そうした知見をデジタルと統合することでしか生き残れない。
 
 そのあたりの詳細については今回初めてエージェンシー向けセミナーを企画した。
是非、電博以下の代理店の経営企画部門の人は参加をお勧めする。

 http://eventregist.com/e/aoTvxEhS6853

 2020年代に広告ビジネスに起きる構造変化と、その対応も提示したい。


 またネット専業でも特化型ソリューションのエージェンシーも、クライアントに単独ソリューションだけでなく、隣接するソリューションとの統合プロデュース機能を求められていることだろう。
 そうした行き詰まりをブレイクスルーするヒントも提示できると思う。

  総合代理店という呼び方は昔からあったが、近年ネット専業との対比でより使われるようになったかと思う。エージェンシーの危機、まずは総合系代理店(とは言っても実態はアナログ代理店という意味になってしまうが)について言及する。総合系代理店も長年口座のあるクライアントに対しては、当然のようにデジタルビジネスも取り込まなければならない。従来から基本的に要請のある仕事があれば、電博以外の総合力のない代理店は、自社内にスタッフ機能がなくても、外部協力会社が十分機能してくれて対応してきた。

 しかし、デジタル関連になると、もちろん外部にメディアレップなどの外注先があるので、まったく対応できない訳ではないが、そもそもプランニング機能、ディレクション機能もないまま外注しているので、従来の外注とは違う。メディアレップ側をやっていたベムからすると、そのオーダーにデジタル知見がないものがいかに多かったかを体験している。さて、デジタル広告も、「枠もの・手売り」ですらそうだったものが、「運用型、プログラマティック」のシェアが増すに至って、そのオペレーション自体をすべて外部に依存している。(電博のようにグループ会社への外注だったらいいとも思えるが、資本の論理ではそうだが、個々のアドマンとしてはどうなのか・・・)
 オペレーションといっても、配信設計、KPI設定、モニタリング、配信方針のディレクションなど、知見の核の部分は有していて、単なる作業部分を外部に出すなら理解できるが、そうした知見そのものを持たないままのオペレーション外注となっている。イベントを外注するのとそこが違う。ワンストップで代理店が扱いを得るにはそれなりのプロデュース機能やプランニング機能、ディレクション機能があるからだ。
そうだとすると、オペレーションの丸投げは、プランニングやディレクションノウハウが蓄積されない。

 
 つまり、エージェンシーとしての機能の空洞化が起きている。これが存在意味にかかわる。


 そして、もうひとつの危機は、従来のクリエイティブ、マスメディアプランニング、プロモーションプランニング、マーケティング戦略プランニングなど、総合ならではの知見が、デジタル対応できていないために急速に陳腐化していることだ。

  ベムは「デジタル化の本質は、従来からあるいわゆるアナログ施策もデジタルテクノロジーとデジタルデータで最適化されることである」と今執筆中の本にも書いているところだ。
デジタルマーケティングというと、WebだのアプリだのSNSだのと施策そのものがデジタルの打ち手と考えがちだが、実際はチラシもダイレクトメールも営業マンのアタックリストもデジタルで最適化される。テレビ出稿もCMクリエイティブもだ・・・。
いわゆるデジタル施策はすでに一通り試された。デジタル化で最も重要なフェーズに入ってきた今後はすべての施策がデジタル化の影響と恩恵を受けることへの対応だ。

だとすると、総合系代理店こそ従来積み上げてきた広告を中心とするマーケティング施策のプランニング力とエグゼキューション力をデジタル化することが急務である。しかるに、未だに何をしたらいいのか分からないというのが現実だろう。

ベムは残された対策は数少ないと思う。

ただ必ずやるべきことは明確である。


さて、ではネット専業やデジタル領域のエキスパートの未来は明るいかというと、総合系ほどではないが、専業ゆえの行き詰まり現象が起こると考える。

 ネット広告の専業、SEM専業、ソーシャルメディア専業、インフルエンサーマーケティング専業、テックベンダーなど、一領域に特化したサプライヤーがどんどんできていている。しかし、彼らが営業の現場で、クライアントから突き付けられている課題は、単一ソリューションだけでなく、その他のソリューションとの統合をプロデュースして欲しいということだ。

 しかし、こちらにも知見がない。
 テレビは分からない。クリエイティブも分からないどころかデジタルでの他の領域も分からない。
もちろん、専業がすぐテレビやCMクリエイティブに対応できる訳もない。

 クライアントの要求にどう対応したらいいのか・・・。

 そして、ここが肝でもあるが、本来、広告主側にあるべき機能(チームビルディングやプロジェクトマネージメント機能)がないことだ。ここ10数年の急激なデジタル化によって対応しなければいけないことが急増したことに起因して、統合して外注管理するスキルもほとんど育成されていない。

 ベムは従来から広告主内部に必要になってきた知見育成を支援することを行ってきたが、それだけでは追いつかない気がしている。エージェンシーをはじめとするサプライヤー側も支援して、間接的に広告主のデジタル化を支援することも考えないといけないかもしれない・・・。

■WPPやOmnicomの誕生と日本市場との意外な関係

 WPPやOmnicomは誕生当初に、日本の89年バブル景気が大きく寄与している背景がある。彼らの現在を支えているのは、実は日本の資産だったかもしれない。ソレル氏の辞任は、現在の景気の波を考えるための大きなキッカケを示唆している。

「広告会社のコングロマリット」が誕生は、WPP(1985年)とOmnicom(1986年)が登場したことが起点と考えられている。ソレル氏はWPPを1985年に買収し、「地味な」Below-the-lineの小ぶりの会社を2年間に英国で15社、北米で3社を買収した小さなスタートをしている。

 これに対してOmnicomはその翌年86年に巨大合併によって強烈な垂直立ち上がりを見せている。当時の「BBDO」、「DDB」、「Needham Harper」の巨大3社を合併させて登場したのだ。86年当時はWPPの知名度はまだ低く、コングロマリットの発端はOmnicomだったとする定義もある。

 Omnicomが巨大広告会社3社合併で誕生した86年のさらに翌年87年に、WPPがOmnicomと競うように「J. Walter Thompson(JWT)(JWT傘下の巨大PR会社の「Hill & Knowlton」等を含む)」を約680億円(5.66億ドル:87年レート120円換算)で買収している。事実上、世界中で今後起こることになる広告コングロマリット同士の競争は、ここから始まった。

 WPPのJWT買収の「資金繰り」は株式交換が半分と、残り半分の約300億円強は銀行からの借入金負債を導入した。WPP自体の当時の企業価値が約300億円(2.5億ドル)であったので、自分より大きい企業を買収したことで、WPPは自分の体と同じサイズの借入金負債を抱えた。こうした経緯で「WPP最初の負債過多の危機」が訪れる

■日本のバブルが救ったWPPやOmnicomのコングロマリット経営
 
ところがWPPはこの借金をなんなく返済して危機を脱出している。実はWPPが買収したJWTは1956年に日本進出をしていたのだが、JWTジャパンは、東京の国道1号線沿いの魚籃坂(ぎょらんざか)交差点付近に「自社ビル」を所有していた。WPPはJWT買収後このビルを、土地神話バブルの真っ只中において売却させたのである。およそ160億円(1億ドル:88年レート160円)で売却し、借り入れの半分を一気に返済した。
参考:Harvard Business Review,「WPP’s CEO on Turning a Portfolio of Companies Into a Growth Machine」

 これと同様に前出Omnicomの経営も日本のバブル期に縁がある。実はホールディングのOmnicomが生まれる前の84年に、当時の日本の旭通信社(現ADK)は広告会社単体のBBDOと「資本の持ち合い」提携を結んでいる。その後の86年にBBDO、DDB、Needhamの3社が結成してOmnicomを発生させたことにより、旭通信社は自動的に巨大広告会社コングロマリットのOmnicom社の株式を持つことになる。同様にこの年に旭通信社と株式を持ち合ったOmnicom側も、87年に「上場する前」の旭通信社の株式を獲得したこととなり、旭通信社の上場を経て持ち株の価値が大きく(数倍に)増えた後に、さらに89年バブルに向かう日本の旭通信社の株式を保持したということになる。参考までに電通の上場は87年の旭通信社(BBDO)上場から、さらに14年後の2001年だ。

 Omnicomは元々BBDOが保有していた旭通信社(現ADK)の未上場時代の株式を、旭通信社が上場後にバブルの真っ只中にサッサと売却を行って利益確定したのだ。金額に関するレファレンスは無いが、筆者の記憶では当時で数百億円単位の株式売却益になっているはずだ。

 旭通信社としては「株式持ち合いの資本提携」としてBBDOと約束したつもりが、ホールディングスのOmnicomに変身してからは、当時の約束よりもホールディングス会社の利益が優先されて持ち合いのはずの株を売られてしまった。当時の旭通信社の経営陣はこのOmnicomの「裏切り株売却」がきっかけとなり、次なるWPP側への「嫁入り準備」が進んだ。

参考:旭通信社創業者の故・稲垣氏への英字紙のインタビュー
https://www.campaignlive.co.uk/article/japans-advertising-giants-masao-inagaki/36591

 とはいえ旭通信社(ADK)側もその後、保有しているOmnicom株が上昇し続け、自社の経営難の度に少しずつ売却し、最終利益の黒字化の調整を図っていたのでお互い様な面がある。実はこの「株式貯金(OmnicomとWPPの株)」こそが、現在のADKが第三位のエージェンシーとしていまだ存続できている原資だった感がある。(上場廃止前のADKのバランスシートには、引き続きOmnicom株の売り残りが存在した)

■今後の広告・マーケティング企業によるコングロマリットのあり方
 上記の経緯紹介は極端な例ではない。これまでのコングロマリットがホールディング企業として成長をしたきっかけが、実は含み資産である「不動産」「株式」「景気」などを礎としてジャンプした経緯がある。

 実はこのような土台の軌跡はOgilvyにもY&RにもR/GAにもエージェンシーに共通した戦略として存在する。「右肩上がりのハード資産を担保として、ソフト部分を成長させる」手法である。紙芝居として魅惑する「夢やロマン」のソフトを、後ろで駄菓子や飴を売って儲ける「ハードが利益担保する」構造だ。

 今改めて考えてみれば、これらの経緯を経た「WPP」、「Omnicom」、「IPG」、「Publicis」、「電通Aegis」等の広告コングロマリットがホールディングス企業として、広告主企業(クライアント)に良きサービスの付加価値を提供しているコト(サービス)は何だろうか。この問いはグローバルホールディングスの領域に留まらない。日本ローカルで芽生えるマーケティング企業もホールディングス化させているし、ビデオ・コンテンツを作るプロダクション・ハウスに至るまでコングロ化させようとする企業体に、「コングロマリットで良いのか、その価値は」と、現在のWPPの行方とソレル氏の辞任を機に考えてみたい。

 このコングロマリットのモデルは広告・マーケティング業界だけに留まらない。元々はジャック・ウエルチ氏が率いたGeneral Electronic(GE)が、買収で成長を作り上げたモデルだ。そのGEがこの1年で株価は半減し、イメルトCEOが昨年末で辞任していることや、GEの解体が進み始めているのも報道の通りだ。(図3,4)

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■コングロマリットとして所有よりもオーケストレーションのユニット

 ソレル氏の辞任によって、「エージェンシーを買収して束ねる」というホールディングスの価値に大きな疑問が「言いやすくなった」。体内に蓄えた「サイロ(各エージェンシー)」を横串にして機能させるというソレル氏の「ホリゾンタリティー」は美しいスローガンのようで、実は機能しないのではないか、という仮説だ。薄々疑問視していたこのスローガンに対し、「王様は裸だ」と言いやすくなったのだ。

 ネットを中心とした世界は状況を一気に反転させるため、自社所有よりも変化に対応できる「オーケストレーション」の繋がりと技法が向くと言われる。WPPにとっては所有してしまった「トラディショナル・エージェンシー」が実は大きな負債になっているのではないか、という見方が生まれて来た。現在のWPPは「ソレル・プレミアム」を手放したのではなく、実は「ソレル負債」を償却できたと言え、これを堂々と「王様は裸だった」と言えるリーダーがWPPに登場するかどうかに懸かっている。

■トラディショナル・エージェンシーが負債に、そしてGDPRも実は大きな影響が
 ソレル氏が辞任した1週間後に「トラディショナル・エージェンシー」のJWT(やOgilvy)が75年間守ってきたアカウントである自動車の「Ford」が、WPPに対してグローバル・クリエイティブのレビュー(再入札)を行うと発表した。グローバルで約4,400億円(40億ドル)、40カ国に及ぶ巨大であり、長い付き合いの「鉄板」クライアントだ。WPPはホリゾンタリティーを実証するチームをJWT、Ogilvy、Y&Rらの「トラディショナル」の精鋭を集め「Global Team Blue(GTB)」を編成し、Fordクライアントのオフィスはデトロイトだが、このユニットのオフィスは「目の前」に構えていた程である。ところが、ソレル氏辞任と同時に「待ってました」とばかりのレビューである。そして、今新たな報道が入って来た。昨年WPPにメディア・アカウントを集約したばかりのRevlonも、これを見直すという。

 さらに欧州が今月より発動させるGDPRの動向もコングロマリット経営には、大きな影響を及ぼす。GDPRの詳細はここでは割愛するが、個人IDを蓄積したマーケティングを「データ管理者」としてコングロマリットがクライアントのアカウント担当としてサービス提供する場合、例えばWPPの傘下のグループMが管理する「[m]ID(エム・ID)」を別会社のJWTがFORDのために活用する、という技は管理規約上、非常に難しい。

 サイロの寄せ集めの「ホリゾンタリティー」では個人IDに集積される「データ管理者」としては不十分で、「厳格なる管理者1社」の存在が必要になってくる。売却カンパニーの筆頭候補としてデータを扱うKantarがその標的になっているのは、偶然ではない。Kantarの抱えるデータは、コングロマリットの傘下に存在するより、独立サービスとして成長できる可能性が高いからだ。さらにWPPの暫定CO-COOとして傘下の「CRM企業(個人IDを扱う)のWunderman」のCEOであるMark Read氏が任命されたのも偶然ではない。個人データをどの会社に集約させるか(責任を持たせるか)は、コングロマリット経営の中で新たに発生する矛盾課題(横と連動するシナジーを産みにくい)が徐々に健在化してくる。

 このFordやRevlonのレビュー結果やこの傾向は、おそらく将棋倒しで発生する事項であり、コングロマリットの行き先を占うことになるので要観察としておこう。さらに配慮しておきたいのは、広告やマーケティングは「トレンド」に左右される事だ。一番大きな「トレンド」と言えば「景気」であり、このコラムで今後の経済的な動向がマーケティング業界に及ぼす影響は大きい背景にも気づいてもらえただろう。興味深い時代の区切りが到来した。


この話題もベムで触れない訳にはいかないだろう。読者の皆さんお待たせしました(笑)。なんとも謎だらけのままWPPのSir Martin Sorrell (73歳)がCEOを辞任するという、筆者個人としては残念なアナウンスが4月14日の週末土曜日に業界を駆け巡った。

 このソレル氏の辞任に対する現在までの状況のおさらいと、WPPやOmnicom、等の「コングロマリット」としての意外な成り立ちについて紹介しつつ、今後の広告やマーケティング・コングロマリット行き先に触れてみたい。これらをまとめて語れるのも業界ベムならでは、の特集だ。

■ソレル氏のAmazon級の成長軌跡
 ソレル氏は1975年に英国の「Saatchi and Saatchi」社の初のファイナンシャル・ディレクターに就任し、その後独立して「Wire and Plastic Products(WPP)」という買い物かごの企業を1985年に買収することで広告事業の器とした。「買い物かご」だった企業が「企業の買収かご」の企業へと変身を遂げた瞬間である。

 それから32年後の現在WPPは総従業員数20万人、世界112カ国にオフィスを持ち、企業価値2.2兆円(200億ドル:150億ポンド)にまで成長した。Revenueの年平均成長率(CAGR)は何と29%である。これはAmazon級の成果で、初年度の売上を1として毎年前年比29%伸ばせば、ソレル氏の在任期間の32年で2,680倍の売上を作ったことになる(図1)。

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■謎のままの、ソレル氏辞任の「理由」
 報道の通り、辞任の発端はWPPがソレル氏に対して「personal misconduct(個人の不適切行為)」「misuse of assets(WPP資産に対する不適切利用)」「financial impropriety(財務に関する不適切)」に対する内部監査を行った結果とされている。しかもその調査の結果は一切物質的な事象は何も公表もされないまま、ソレル氏自身に対しても「一切悪い行動はナシ」と判定され、調査は終了している。解任ではなく辞任であり、対応方法としては「引退」として、その後のストックオプションや残りの5年分の報酬なども支払いは継続される。ソレル氏のPR会社を通じたコメントは「自分の辞任がWPPにとって、取り得る最高の道」とした。

 まずはCEOを辞任に追いやる圧力となりうるのは株主と考えるのが妥当だろう。ところがWPPの大株主の上位は、ほとんどが米国系のファンドと一部の欧州系のファンドで構成されている。これらの株主であるファンドは全て「ソレル氏のファン」で構成されており、「ソレルCEOだからこそ保有していた」銘柄であったはず。よって株主からの単なる不信任によるCEO降ろしというシナリオは考えづらい。

 あるいは、日本で起こったセブン&アイの鈴木(前)CEOの辞任や、三越伊勢丹の大西(前)CEOのような経営陣の「内乱」であれば、その反対派が交代のCEOを立てるが、WPPは事実上CEO不在のままだ。現在の取締役議長が暫定CEOに「スライド」し、準備不足な役員2名が共同COOとしてスライド就任している。この状況から鑑みても、CEO継承プランがないままの突然の辞任であり、まるでソレル氏が事故にでも遭遇したような、緊急対応の様相だ。

 昨年、日本の電通(前)CEO石井氏が労働環境に対する責任を取って辞任をした際には、現山本CEOという後任がすでに予定されていたことと比べても、今回のWPPの一件は異次元の状態である。現在WPP「外部の」英国系の人材がスカウトの中心として名前が上げられている。

 ソレル氏への報酬が2015年には約110億円(1.07億ドル)に達し、それに関係した非難と推測した報道もあるが、ソレル氏は、特にWPPの企業としての財務行動に関しては自分の報酬の取り決めを含め単独(個人)では動けない(監査会社や、弁護士会社、PR会社を経由した行動を取る)はずで、秘密裏に何か不祥事を起こしたとは考えにくい。

 それでも「辞任」が、「最高の手段」であるためには、辞任と引き換えに何かがチャラになる、という事だ。憶測にすぎないが、ヒントは暫定CEOが財務発表時に述べた「a matter of privacy(個人のプライバシー)」の表現だ。「ソレル氏にとっての「非常に個人的な事」なので、調査結果の公開を控える」というセリフだ。法的な不正はWPP的にもソレル氏的にもあり得なく、それ以外のイエローカードが存在したという事だろう。この続きに興味のある方は、ニューヨークの榮枝に直接聞いてもらいたい。

 いずれにしてもソレル氏は人的ネットワークも資金も潤沢に(!)保有されているので、32年前とは格段に違うエンジェル投資家としてやファンドとして再び活躍することも出来るだろうし、その方が新しいポートフォリオを作る近道と思えば個人的な道は広がるだろう。余談トリビアだがソレル氏は2005年の離婚では当時の英国史上最高額の財産分与を行い(株式売却分約67.5億円:4500万ポンド)、その後ダボス会議主催者のメディア・ディレクターと再婚し、2016年に女の子を授かっている。前妻との3人の息子はすでに40歳代前後で、全て金融業界で指揮をとる人材として自立している。ソレル氏の誕生日はバレンタインデー(2月14日)であり、本人の誇り(欧米では男性が女性に尽くす日)であるのは筆者が個人的に聞いた事がある。

■WPPが失った「ソレル・プレミアム」

 むしろ結果的に追い出した側のWPP社は、いわば「ソレル・プレミアム」を失った。この1年ほどで株価はすでに30%ダウンの傾向にあり、辞任発表後の週明けはさらに9%ほどのダウン。ところがその翌週にWPPの第1四半期の発表が予定通り開催され、ソレル氏抜きの初の財務発表会だったのだが、「予想より良かった」事で9%ダウン分を戻している。この復活発表はソレル氏が自身で発表したかった事だろう。

 今後のWPPは「ソレル・プレミアム」がなくなった割安感が継続するならば、Omnicom等の投資集団から受ける買収のリスクが高まる。あるいは利益を出している広告会社やPR会社、調査会社が単体で切り売りされる可能性もささやかれている。

 日本でも既に電通がWPP系列エージェンシーとの合弁であった「電通ワンダーマン」と「電通ヤング・アンド・ルビカム」の株を買い取って電通自社名に吸収し、完全にWPPとのネジレを精算した報道がされている。英語メディアでは逆の目線で上記の電通とのJVの「アジアの支社」をWPPが買い取った、という報道になっている。

 これも余談だが、ADKがベインと組んだ「脱WPP作戦」は「脱ソレル作戦」と言えるが、まさかWPPからソレル卿が居なくなることは想定していなかった作戦だった。ADKの施策に口出しがうるさいソレル氏が居なくなるのであれば、ADKは急いでベインと駆け落ちしてまで「WPPの持つグローバルリーチ」を手放す事も無かったのではないか、という後出しの考えが働く。

■コングロマリットが「所有」し「束ねる」価値は何か、切り売り分解した方が企業価値は高まる?

 さらに市場の分析では、WPPの現在の株価を元にしたWPPの企業価値が150億ポンド(2.2兆円)だが、現在傘下の企業や株を売れば、220億ポンド(3.3兆円)になりえるだろう、という予測がある。これはアクティビストを含む、今やコングロマリットは切り刻んだ方が資本効率はあがる、といういつもの理論が登場している。集団よりも分離した方が価値が上がるのならば、コングロマリットの形態の価値に非常に疑問が出てくる。

 この流れで具体的にWPPの傘下企業、投資株を売ればどうなるかの噂話が耐えない。WPP傘下の大きい企業での放出例が「調査・データ会社のKantar」、その次に「VICE株」「AppNexus株」等への投資解消の話がある。

 Kantarならば、例えばKantar自身がMBOを通じて独立するとか、あるいはデータ競合企業の「Nielsen」が買収するならば、35億ポンド(5,250億円)と見積もられ、WPPの現在の負債量51億ポンド(7,650億円)の 多くを返済できる。

 さらに「WPP Digital」は精鋭のテック企業の多くに投資しているがコンテンツ企業の「VICE」やアドテクの「AppNexus」の名前も上がっている。AppNexusはIPO前だが、推定20億ドル、WPPは15%保有しているので、ざっくり300億円強の価値がある。これらのエクイティー投資を合算すると帳簿上は25億ポンド(3,750億円)だが、今の株高で売れば60億ポンド(9,000億円)に相当すると言われている。すでに株式市場はリーマン・ショック直前をはるかに上回る市場価値を形成している。ソレル氏が作った価値を「売るなら今」という理論は十二分に納得できる。

 後半は、そんな株式市場の景気(株高の時に売り払う)がコングロマリットの成長と無縁では無かった話を紹介する。何と日本の89年バブルが関係している。

「DNVB(Digitally Native Vertical Brand)」の呼称はその概念の先端を行く男性ファッション「Bonobos(昨年、米流通企業のWalmartが約340億円で買収)」の創業者が名付けたネーミングだ。日本でも「サブスク」ブランドとして多くのブランドが立ち上がっている。日本でもこれから「月額会員」を募ってサブスク・ビジネスが次々に出てくるだろう。

 このDNVBブランド達は自らのバイブル(想い)に対して「熱狂的なファン、顧客」を持ち成長している。彼らの顧客とは長期的なエンゲージメント(サブスク申し込み、クレジットカードなどの決済情報の契約)を結んでいる。そしてDNVB自社からの情報はオンラインにてメディアを経由せず顧客にリーチし、商品やサービスは顧客の自宅(やオンライン)にまで直接届ける「流通網」を持つ。

 言うならば「アマゾン要らず」、「パブリッシャー・メディア要らず」、「エージェンシー要らず」、「店頭、レジ要らず」のモデルだ。レジが不要の「Amazon GO」が話題になっているが、この現象の本髄はコンビニやCPG企業を含めた商品の流通企業に限らない。「Netflixエフェクト」を受ける番組・映像を流通させる放送局やパブリッシャーにとってもど真ん中の話題であり、医薬・保険を含めた健康サポートや教育事業の流通に至るまでのあらゆるビジネス関する「ディストリビューション」網の再構築であり、序章だ。
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 と、ここまでは日経新聞を始め、各社が報じている内容だろう。それよりも今、米国で深刻なのは「では、どうするのか」の経営者としての舵取りの領域である。さぞかし現状は無視できる程の小さな穴なのだが、船底の穴はそのまま放置していくと、どんどん自社の旧来のビジネスがDNVBに少しずつ侵食され、沈んでいく。目の前の甲板デッキの椅子をせっせと並べ変えして、沈み具合を調整している場合ではない。

 このDNVBのビジネスモデルの説明において、1898年に生まれたとされるマーケティング概念の「ファネル(ジョウゴ型)理論」は当てはめにくい。これらのブランドにおける顧客コミュニケーションは、ジョウゴ型と表現するよりも「円筒型」に例える方が分かりやすい。円筒の直径サイズはほんの「熱狂的な数万人」でビジネスが成立する。円筒状(パイプ状)の繋がりはジョウゴ状(のマーケティング)のように「拡張」させるつもりはなく、ダイレクトに円筒の先(顧客)までメッセージやサービスが届けるしっかりとしたパイプだ。顧客をジョウゴで拡張させるためにサードパーティのデータを使うよりも、いかにファースト(&セカンド)パーティーのデータを筒として育成させるかの重要度が増える。

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©翔泳社


◆◆◆

 実はマーケティングの雄であるP&Gが、このDNVBを避けたばかりに他社に抜かれた状態になり、待った無しになっているのはご存知だろうか。

マーケティングの雄、P&Gへのファンドの提言(Markezine)
https://markezine.jp/article/detail/27918


 日本法人のP&Gは世界的にも「優良児」の経営なので気づきにくいが、本体の米国はDNVB(D2Cブランド)への投資を避け続け、抱えて慣れないブランドは他社に売却し、数十年前から保持する伝統ブランドにばかり偏ってマーケティング費用が充てがわれた結果、成長が止まっている。物言う株主(トライアン・ファンド)がこの点を指摘し、それを抵抗していたP&G経営幹部はトライアンから経営者を受け入れを今年3月から開始した。

 さらにこのDNVBのビジネスモデルは、「広告」の協会であるIAB(Interactive Advertising Bureau)すらが特別レポート(スライドページは175枚!)として今年2月に発刊している。下記リンクを紹介するので、是非ダウンロードして見てもらいたい。数値や絵が多いので英語を気にせず読み込めるはずだ(経営を目指す若手は必見)。

https://www.iab.com/wp-content/uploads/2018/02/The-Direct-Brand-Economy-Master-Deck-v14.pdf

冒頭の3ページ目に、これらのDNVBブランドのロゴが約150個程紹介されている。↓


IAB DNVB.png


出典:IAB

 驚くのはIABという「インタラクティブの広告」に関する業界団体がこのDNVBという「ビジネスモデル」を団体の活動領域として紹介する必要が出てきた、という現れである。IABが「DNVBも我々の貢献の範囲」と先手で主張して来た事になる。


 上記「米国P&G」の事例や「IAB」の事例は「マーケティング」概念がより経営トップ(CEOレベル)にシフトしている顕著なシグナルだ。日本では「CMO」の役割の必要性がようやく説かれ始めているが、欧米ではすでに「CMOの終焉」が一部のマーケティング業界上層部での共通用語となっている。「コカ・コーラ」、「ハイアットホテル」、「GAP」、「バナナ・リパブリック」、等はCMOの呼称ポジションを削除し、CEO等のトップが兼務する事を公表している。

 その変化の背景としてCMOの「M:マーケティング」の旧来の意味合いが、「コストセンター」としての役割で「販促」や「(旧来の)ブランド育成」という「今ある商品を売る・良くする」支援に留まる意味合いを持つからだ。

 すでに企業経営から見たマーケティング(的)な範囲とは、「成長ドライバー」を発見して、投資・育成をする=「未来ROIを獲得する事業センス」が求められている。D2Cブランド買収=One-to-Oneで繋がるオーディエンス顧客の獲得という風上の決断に始まり、顧客に到達するまでの「ディストリビューション(流通、コンテンツ、カスタマーサービスを含む)」を投資として捉え、風下まで管理・コントロールするセンスと責任だ。これまでマーケティング費用とは別予算と考えられていた「設備投資(R&D)費用」は、明らかに(重要に)成長ドライバーを担うので「R&D+広告+プロモーション」は全て「新」マーケティングの管轄領域となる。

 例えばP&Gが昨年「ネット広告を削減しても、売上には影響が無かった」と公表し、ネット広告業界に嵐を起こしていたが、肝心なのは「削減費用」やそれによる「利益の向上」ではなく、「では、浮かした費用を、R&Dとして未来の成長ドライバーのDNVBのようなブランドに再投資出来たか」という采配や判断である。


◆◆◆

 以上、一方的に米国からのあおる側面ばかりの論調をお許しいただきたい。実は悩ましい側面も含んでいる。それは2018年の米国と世界の景気動向だ。上記DNVBの概念や、最近目まぐるしく成長するOTT(Netflixを始めとするネット配信動画)や、動画コンテンツの「新」ビジネスは全て「右肩上がりの経済」を大前提として(担保として)成長している。それらのビジネスモデルのほとんどが、フリーキャッシュフローが黒字の範囲で成長しているモデルとは言えない。「船底の穴も気になるが、目の前の雲行きが怪しい」という船底と上空の視座を持った経営判断が求められる。

 マーケティング業界で少し感度の高い人なら、「Warby Parker」というブランド名を聴いたことがあるだろう。またBonobosという男性アパレルブランド名はどうだろうか。
D2C(ダイレクトtoコンシューマ)というキーワードで出てくるブランド名だが、もっとこれらのブランドの特徴を言い表したワードが、Bonobosの創業者であるAndy Dunnが作った造語「DNVB(Digital Native Vertical Brand)である。

 「デジタル・ネイティブを起点に生まれたバーティカル・カテゴリーに特化したブランド」で、別名「v-commerce brand」とも言われ、従来品がE-Commerce 上に乗っかるだけの形態と区別される。

この情報は、デジタルインテリジェンスNYの榮枝から今年になってレポートされたなかでも特筆すべきものである。
ベムは彼を早々に東京に招聘して、この動向の意味を、セミナーを実施しつつ、特に企業の経営企画が把握すべき情報として発信したいと考えている。

さて、DNVBを定義すると
① 「製造直販」をテクノロジーの力で可能にさせている。中間コストが少ない分粗利率が高い。
② 「ブランド体験」がオンライン起点で拡散される。自社ブランドが提供するメッセージだけでなく、インフルエンサーを筆頭としたソーシャル上のユーザー起点のコンテンツがブランドを支える。
③ 通常のEコマースやアマゾンのチャンネルと競合しない「第3の流通チャネル」
④ 顧客情報を直接保有している。(サブスクライバーとしてクレジットカードが登録)
⑤ スタートアップの起業マインドでコミュニティを成長させるパワーを持つ。大企業の自社開発で立ち上げるブランドとは趣が違う。

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さらに、DNVBに共通する特徴は
・CPGブランドでは、一見衰退していた「老舗の工場」や「リアルの製品や素材」をM&Aや提携で確保している。そして「テクノロジー・プラットフォーム」で再生させて、流通経路をユーザーまで直結させている。
・SNSを中心にオンライン上に「オーディエンス」を持つメディアであること。
・スタートアップとしてP/L、B/S全体の管理 →マーケティング費用はR&D費用の概念でオーディエンスを開拓する投資である。
・強烈なリーダーシップ→届けたいサービスに対する創業者の思い、バイブルが存在する。
・エグジットを前提としたビジネスモデルで、エグジットで得た資金をさらなる成長に再投資するマーケティング

ということになる。
レポートしてくれたDIニューヨーク榮枝は、このモデルを従来のマーケティングファネルに対して、筒状のモデルで表現する。

 ファンを数万人、数十万人を集められる強烈な個性と、独自のブランドテイストをもつブランドがいきなり顧客(サブスクライバー)を集めて始まり、ファンがメディアとなってその筒の直径が大きくなっていく。
 ここにはマス市場に向けてブランドの認知から始めるマーケティングファネルのモデルは全くそぐわないものとなっている。

 
 ウォルマートが約3000億円で買収したJet.comとそのカリスマリーダーであるマーク・ローリが、ウォルマートでやっているのがBonobosをはじめとするDNVBの立て続けの買収である。
これが対アマゾンのウォルマートの戦略のひとつであることが垣間見える。

デジタルインテリジェンス主催のDNVBに関するセミナー情報はまた追ってこのブログでもお知らせする。


 デジタル動画広告が市場を拡大してきた。バナーに比べれば訴求力のある広告フォーマットではあると思うが、そこはクリエイティブ次第。

 最近ではあまり流行らなくなったかもしれないが、いわゆるリッチメディアに改めて注目したいと思う。それは動画市場によって、ブランディング目的の広告がデジタル広告を使うようになったからで、キャンペーン型のメッセージ訴求というより、ブランドの本質を恒常的に伝えるタイプの出稿として(デジタルだけで完遂するブランディング広告として)もっと取り入れていい。

 その意味で、テレビCMとの統合効果を狙うキャンペーン展開型のデジタル動画と、こうした恒常的にデジタル出稿だけでのデジタル広告と、デジタルブランディングにはふたつの考え方があるかもしれない。

 ネットの世界は基本「ユーザー文脈でのコミュニケーション」である。一方、テレビはブランド文脈のコミュニケーション。
 だから、デジタルではユーザーの「自分事化」が必要であり、テレビは「社会事化」(みんなが知る認められたブランドであるパーセプションを得る)役割と言っていい。

 広告認知・ブランド認知といってもそれぞれアプローチが違い、その双方と接触することで「態度変容効果」を最大化するのが目的となるだろう。

 ベムは「テレビで認知させて、ネットで刈り取る」は、「デジタルで素地をつくって、テレビで刈り取る」になると思う。テレビは日本ではいまだ「強力なプッシュ力のある唯一の広告メディア」であり、野球で言えば「スラッガー」だ。
 スラッガーはやはり4番を打たせたほうがいい。
 そのために1,2,3番が出塁して、テレビでホームランを打てば、4点入る。
デジタルである1,2,3番が出塁しておくことが重要である。

 ベムは「テレビで認知させて、ネットで刈り取る」というようにいつまでもファネル構造で考える時代ではないと思う。
 先に、ターゲットセグメントごとに「より刺さる」コミュニケーションつまりそのターゲットセグメントが「自分事化」する広告メッセージを当てておくことで、テレビCMの効果が最大化できると思う。

 おそらくブランディング効果のデジタル動画の多くはこうしたテレビCMとの補完や相乗効果の醸成を狙うものになるだろう。

 
一方、デジタルではブランドの文脈でのコミュニケーションは出来ないのかというと、文頭で言及したようにリッチメディア型に再注目なんだと思う。

 ベムは、デジタル広告でのブランディングには、デジタルでしかできないこと、つまりインタラクションによるブランド体験をユーザーに提供するということがあると思う。

 その昔「アイブラスター」という、リッチメディア配信のシステムをDAC時代に売っていたことがある。F君と一緒にいろんな代理店に説明に行った。

 そのアイブラスターの第一回目のリッチメディアクリエイティブコンテストの最優秀クリエイティブは「ジッポ」のフルスクリーン広告で、いったん暗転した画面をジッポのライターがあかりを灯してもとに戻すだけの、ブランドの価値を「それ以上でも、それ以下でもない」かたちで表現してみせるものだった。
 ベム自身もDAC時代に試作に加わったインタラクティブバナーでは、ある空冷エンジンの外車が正面を向いていて、そのエンブレムにカーソルを持ってくると「ブーン」といういかにも空冷のエンジン音がするという、これも「それ以上でも、それ以下でもない」ブランドの意味や価値を広告接触者に体験させる表現だといえる。

 こうした表現は、今でも、今からだこそ通用するし、評価される気がする。
ベムは、従来のキャンペーン型の投下手法(テレビ投下が終わると急激に減衰するコミュニケーション効果で谷をつくる)から、恒常的な底上げにマーケティングコストをシフトする「山を盛るより谷を埋めよ」というフレーズで、ブランド価値訴求を通年でベースをつくっておく意味をクライアントに説明することがあるが、もしかすると、ブランドの価値をインタラクションで印象的に体験させることができるクリエイティブが出来たなら、通年型のデジタル出稿をブランディング目的で活用することも検討していいのではないかと思う。

3)米国が採用する放送の新規格「ATSC3.0」への注目。2018年2月の韓国は平昌冬季オリンピックで、放送局主導による「テレビ番組のネットIP上での放映」が実用として開始され、テレビ局側のネット配信側に対する逆襲が見もの。日本の放送業界は韓国視察が花盛りに。

 「ATSC 3.0」は日本のマーケター企業や一般企業の方にとっても「自分ごと」としての馴染みが少ない単語だろうが、重要な規格単語だ。米国と韓国(サムスン、LGのお膝元)ではすでに「地デジ」の後継となる次世代テレビ方式「ATSC 3.0」が「テレビのネット化」に向けて前進し始めている。このトレンドの先が明日のビジネスを左右する日本のテレビ局界隈では、周知の話題である。ATSC3.0方式が世界の先陣を切って開始される今年の韓国での平昌冬季オリンピックに向けて、その技術のインパクトを感じるために日本のテレビ局による「視察ツアー」が大賑わいになる。

 現在私たちが日本で馴染みのある「地デジ」放送とは、「デジタル」という名は付くが、決して「IPのネット上」に流れるコンテンツではない。依然として「テレビ」の世界と「ネット」のビデオ世界との間には、「IPの壁」が存在している事に気づいておこう。新ATSC3.0方式はこの壁が無くなり、例えれば、Wi-Fiいらずで「スマホでテレビ」が見られて「テレビでネット」が見られる技術なのだ。

 現在のWi-FiやブロードバンドによるIP放送と何が違うのか、という技術的な事はテレビ局関係の方にお譲りするとして、知りたい課題は「ATSC 3.0に移行するのか、それはいつか」、「移行すると、何が変わるのか」である。

 大掛かりに移行完了した「地デジ」化は、この「テレビとネットの融合」技術のためのイントロ整備であり、ATSC 3.0(的な)技術が導入されてやっと「テレビ放送とデジタルビデオの垣根」がなくなり、アドレサブルな配信がテレビ局によって可能になる。特に「地方局」にとっては、キー局やGoogleに頼ることなく、自社オリジナルコンテンツを開発し、自立オーディエンスに向けて発信ができる「新生ローカル局」となれるチャンスを与える技術だ。

 この方式は米国の連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)の旗振りで進んでいる。ちまたの日本のマスコミ報道ではFCCによる「ネットの中立性撤廃」について取り上げ、否定的な報道に偏った報道傾向がある。MAD MANレポートの読者には片側の意見だけではなく、両側やその先の考えを見ることで視野と思考の広がりを共有したい。例えば過去の「情報スーパーハイウェイ構想」などのキャッチコピーで釣る政策ではなく、着々と業態変革に向けて実務が進んでいる政策の1つがこの動きなのだ。(続きはMAD MANレポートにて)■


AIにおけるAmazonブームの一服、Googleの王座防衛、中国「ビットメイン」社の躍進(その「智子」とは:英語名Sophon)。中国はビットコインの技術と投資の矛先がAI側へ向けてシフトさせる予兆。

 音声入力のAmazon Echoの発売が日本でも開始され、音声AIのAlexaの「スキル」が日本語仕様で出回り始めた。いよいよ日本も「毎日Amazon」状態である。

広告業界の中に絞って見ても、広告主側企業&エージェンシー800社を対象とした「DSP利用」調査では、Googleの「DoubleClick Bid Manager」と、Amazonの「Amazon Advertising Platform」がダントツの2強と報告されている程だ(今年前半の発表ではAmazonが首位であった。広告主側の「DSPとは何か」、の定義課題は横に置いておく)。

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昨年のAmazonは、1月のCESで「出店していないのに一番目立っていた」存在となり、「Whole Foods Market」のリアル流通網を8月に買収完了させて稼働し、11月は「DeepLens」AIカメラを発表しと、「Amazon祭り」の一年だった。その結果、日本でも年末には「Amazon Effect(影響)」の呼び名が日経の2017年ヒット番付の横綱に輝く盛り上がりようである。

 とはいえ、まだ現在はあまりにも「表層的」な報道ばかりだ。たとえば、Amazon Echoは確かに出荷個数を増やしているが、音声入力端末カテゴリーでのマーケットシェアで見ると、昨年は8割を超えていたが今年は68%にまで落ちてきている。

 あるいは「スキル(アプリ)」の個数は25,000個を超えているが、その6割以上が「レーティング」無しの「実験スキル」にすぎない。筆者は最近、Alexaに向かって声を出すための「横隔膜」の動作の方が、スマホにタップする「指先」よりも逆に面倒であることにも気づき始めた(例えば就寝中の静けさの中など)。音声デバイスとその先のAI機能やDeepLensに至ってもまだまだ用途は「おもちゃ」の領域から抜け出せず、これからがAmazonの腕の見せどころであり、AWS(Amazon Web Service)で蓄積するデータの入り口を用意したばかり。

身近なB2Cの「周りに見える」世界に目が行きがちだが、むしろAIとディープラーニングの分野では、Googleの方が開発費や過去のデータ量では圧倒的に「先回り」していると見る方が的確で、IBMやMicrosoftを含めた「巨人」達との力関係を把握する必要がある(そのためAmazonが凄いという判断はなかなか出しにくいものだ)。

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むしろAIの分野のリーダー(打ち上げ情報)を追いかけるだけでなく、この章では「ダークホース」にも目を向けておきたい。思わぬ産業が互いに繋がろう(ブリッジ)とする様子が見え始め、新たなエコシステムが形成されている。

 たとえば過去にもマーケティングテクノロジーの「DSP/DMP/RTB」の概念が始まったのは、リーマンショック以降に金融業界の「フラッシュ・ボーイズ(マイケル・ルイス原作)」のテックチームがマーケティング業界に乗り込み、10億分の1秒の「取引プラットフォーム」の世界を作り上げたと言われている。現在も同様に、金融のビットコインの「マイナー(コインを掘る人=計算インフラで儲ける人)」たちが、その知識と資金力を使ってAIの産業に流れ込んでき始めた。計算能力とスキームを通貨市場だけでなくAI市場に向け始めたのだ。中国での出来事だが米国では既に話題になっている。ビットコインのマイナーとして最大手の1社である「Bitmain」社がAI産業に向けて矛先を変えて来た。
※:冒頭の「智子」は「ともこ」ではなく「Sophon」と書く。(続きはMAD MANレポートで)■

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